148話 閑話 アーデルヘイト・ストリークヴェルダ 1

 私はアーデルヘイト・ストリークヴェルダ。


 今、私は軽く混乱している。

 原因は新しい主人となったアルフレードさまだ。


 小さい頃から私は見た目を褒められていた

 100年に1人などと言われたりもした。


 一族の役に立てるよう、ある方面に関しての教育を受けていた。

 使徒降臨の時期も近かったので、その可能性もあったのだろう。


 ある方面とは美しさを保つことと、男を籠絡する方法。

 道具のような扱いなのかもしれない、でも不満はなかった。

 族長の家族ともなれば、一族のために生きるもの。

 それが当然だから。


 他の子がするような仕事は一切していないし、させてもらえない。


 他人にすれば変だと思われるだろう。

 でも、私が必要になるときが待ち遠しかった。


 男に差し出されるときが来ないと……私はただ食べて、体を奇麗に保つだけ。

 ハッキリ言えば、他の皆に申し訳なかったのだ。

 狩りをして傷ついた人たちや、必死に作物を育てる人たちを直視できなかった。


                  ◆◇◆◇◆


 そんな日々に微妙な変化が訪れたのは、猫人の使者が父を訪れたときからだった。

 『ただの馬鹿ではいざというときに役に立たない』と言われて、父の手伝いをしている。

 手伝いといっても伝言ばかりだけど。

 それでも父の側で、いろいろな情報に接することができる。


 猫人の使者はスザナ・ヘイダ。


 時折使者としてやってくる、だが私は彼女とはソリが合わなかった。

 理由は分からない。

 だが、スザナもそうらしい。

 時折私を蔑んだような目で見る。

 

 会見での私は黙って見ているだけ。

 スザナは興奮気味な様子。


 いつもの余裕がない。

 普段は余裕をもって受け答えをする。

 色気もあり、思わせぶりな態度で男を誘惑してもいる。


 スザナは族長のお気に入りらしい。

 最近は猫人の代表のような顔をしている。


「レフィさま、ことは一刻を争います」


 レフィ・ストリークヴェルダ。

 父の名前だ。

 有翼族は皆華奢。

 父もその例に漏れない。

 それでも族長として威厳ある顔つきを崩さない。

 でも、本当は心配性で気が小さいことも知っている。


 スザナが必死に話しているのが、最近現れた一団のことだ。

 狼人を瞬く間に傘下に収めて、虎人も撃破。


 そんな一団は邪悪そのもの。

 人間の傲慢さが形になったようだ……と捲し立てている。


 虎人の取り巻きに猫人がいて、その猫人が人間のボスに危害を与えようとして返り討ち。

 猫人が裏で糸を引いていると決めつけて、大将だった虎人の首を送り付けてきた。


 弁明に向かったが、無条件の移住か不可侵条約の締結の2択を迫ってきた。

 移住は信用できないし、不可侵条約とていつまで守られるか分からない。


 そして、放置してわれわれがやられる。

 次は当然私たちが狙われると。

 ボスが狙われたので報復は必至。

 それは分かる。

 この世界でボスが狙われたら報復するのは常識。

 戸惑っているようなら弱腰で、その部族の未来はない。


 話を聞いていて素朴な疑問が浮かんだ


 傘下にした狼人はどうなっているのだろう。

 だが、口を挟むことは非礼に当たるので黙っている。


 父がしばし考えたあとで口を開く。


「スザナ殿。

われわれで勝てるのかね? 虎人を撃破するような強さをもっているのだろう。

正面からでは勝ち目はないと思うが」


「ですので、マガリ殿の力をお借りすればよろしいかと」


 マガリ婆の所にたまに遊びに訪ねている。

 マガリ婆との話は楽しいし、私を孫のように可愛がってくれている。

 そして、大変な知恵者だ。


 昔、どこかの家に仕えていた女騎士だったらしい。

 さぞかし有名だったのだろう。

 だが、その話を聞いても答えは一つ。


「小娘にはまだ刺激が強いさね。

アーデルヘイトが生娘でなくなったら教えてやるよ」


 笑ってはぐらかされる。

 後日、マガリ婆の所で今後のことを話し合うことになった。

 スザナはその足で先にマガリ婆の所に向かう。

 その後に雑務を片付けた父もマガリ婆の所に向かった。

 今年は作物が不作。

 その対応で忙しいのだ。


                  ◆◇◆◇◆


 翌日、父の使いが私を呼びに来た。


 私はすぐにマガリ婆の所に飛んでく。

 飛べば数時間の距離。

 飛んでいる間は、自由になった気がする。

 私のお気に入りの時間だ。


『アーデルヘイトにも関係する可能性がある、あの子をお呼び』


 そう言ったらしい。


 私が到着すると、マガリ婆、父、スザナが待っていた。

 マガリ婆は私を見て、ニヤリと笑った。


「よく来たね。

そこのニャンコが急かすからね。

早速始めようじゃないか」


 私が父の後ろに座ったので、マガリ婆がうなずいた。


「ニャンコの言うことは分かったさね。

それでも、一つ確認したいことがあるのさ」


 スザナが警戒した顔になる。


「何でしょうか」


 マガリ婆が少しあきれたような顔になった


「お前さん、そんなポンポン表情を変えたらいかんよ。

ま……いいさね。

狼たちは移住していた……。

それで合っているね?」


 何かを思い出したのだろう。

 急に無表情になってスザナが答えた。


「はい」


「人質みたいなのはいたのかね」


「ある意味全員がそうかと」


 マガリ婆が何かを思案する顔になって言った。


「まずは使い魔で相手の内情を探ることだね。

あとレフィ坊、アンタも使い魔と部下に遠見をさせなよ。

とにかく相手のことを探りな」


 遠見は遠くを見渡す魔法。

 私たち有翼族は高い位置からそれを実行する。

 そうすれば1キロ先の子猫も識別できるのだ。


 父は教えを請うような顔でマガリ婆を見た。


「何を調べれば?」


 マガリ婆が出来の悪い息子を見るように、頭を振った。

 父は堅実だけど、機転が利くタイプではない。

 たまに、マガリ婆にお説教をされている。

 小さい頃から世話になっていて、父もマガリ婆には頭が上がらない。


「何でもだよ、あと相手の親玉の住居と場所だよ」


 スザナがパッと明るい顔になって話に食いつく。


「敵の頭を狙うのですね!」


 マガリ婆が呆れたように首を振った。


「そう結論を急ぐんじゃないよ。

出来るかは情報次第さね。

さ、急ぎなよ。

でないとアタシがポックリ逝ってしまうかもしれんよ」


 マガリ婆は殺しても死なないような気がするけど……。

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