147話 攻撃の概念

 密に、最大レベルでの子供への警戒をしていた日々の中。

 マガリ性悪婆の一団に加えて、有翼族の一団が移住

 そのせいか猫人たちは、何かをたくらんでいても手が出せない状態。


 物語としては盛り上がりに欠ける。

 正しい戦略をとると、何もせずとも状況が有利に運ぶ。


 俺としても盛り上がるより、子供の安全が確保されて一安心といった所だ。

 そして、日常にも若干の変化がある。


 うかつにも俺の秘書第3号になったアーデルヘイト。

 仕事量と多岐にわたる内容に目を回していた。


 ミルとキアラは、慣れている。

 仕事も手早く片付けている。

 アーデルヘイトはまだ右往左往、1日の終わりにはげっそりした表情で帰っていく。

 ちなみにアーデルヘイトは、族長の娘だった。


 2週間ほど経過して、さすがにお疲れ気味なので声を掛ける。


「アーデルヘイトさん、やはりお疲れですよね。

休暇をとってもいいのですよ」


 だらけかかっていたアーデルヘイトが、ビシっとして答える。


「い、いいえ大丈夫です!」


 有翼族を見ると、新たな発見があった


 元気だと翼を畳んでいても、ピンとしている。

 疲れると畳んでいても、ダラーンとするのだ。


「こんな業務なんて初めてでしょう。

疲れて当然ですよ」


 最初会ったときは、ミステリアスな美人だったのだが……。

 一緒に仕事すると、ごくごく普通の人だった。

 アーデルヘイトが空元気で、返事をする。


「ここで音を上げてはいられません!」


 と言いつつ、顔に『抱かれていた方が、ずっと楽だったわ』と書いてあった。

 キアラがほほ笑む


「ええ。

アーデルヘイトは覚悟をして、お兄さまの秘書をされているのですからね。

もっと頑張れますわ」


 アーデルヘイトが絶望した顔になる。

 実は結構、この人は面白い。

 ミルも、笑いを堪えている。


「実はね……。

これでも楽になったのよ」


 確かにな。

 アーデルヘイトの顔が、絶望顔から能面になった。

 いちいち顔に出すぎだろう。

 放置して、逃げられても困る。


「では、ここで小休止しましょうか」


 アーデルヘイトが露骨にほっとする。


                  ◆◇◆◇◆


 キアラが、お茶とお菓子を用意してくれて一息つく。


 そしてキアラは、何かを聞きたそうに俺をじっと見ている。

 俺の視線に気がつくとニッコリ笑った。


「お兄さま、猫さんたちはどうするのですか?」


 お茶を飲みながら、天気の話でもするノリだ。


「別に何かする必要はないでしょう」


 ミルも異存はないのだろう。


「そうね。

急いで、あそこを攻める必要はないものね」


 アーデルヘイトが、恐る恐る手を上げる


「どうしましたか?」


「実は父から、領主さまの知謀を学んでくるようにと言われていまして……」


 知謀ってねぇ。

 大袈裟だろ。

 まあ、そんな話にもなるか。


「質問はご自由にどうぞ」


 アーデルヘイトが露骨にほっとする。

 顔に『ベッドの上なら、簡単に聞けるのに』と書かれていた。

 どんどん、イメージが崩れていくな。


「猫人は敵と認識しているのですよね。

どうして攻めないのですか?」


 敵だからすぐ、武力で攻撃。

 その概念だけでは、足りなさすぎる。

 武力はあくまで、最後の手段だよ。


「勝手に崩壊する相手に、わざわざ戦闘しなくてもいいでしょう」


 アーデルヘイトが思案顔になる。


「攻められないか……不安にならないのですか?」


「不安よりも私にとって、大事なことがあります。

どれだけ犠牲を少なくして、目的を達するかですよ」


 ミルとキアラは、入学したての後輩を見るような感じでほほ笑んでいる。

 アーデルヘイトが、まだ分かっていないようだ。


「それが待っていることと、関係があるのですか?」


 ちょっと苦笑してしまった。


「そもそも、何で猫人を攻めていないと思っているのですか?」


 アーデルヘイトが硬直した。


「そうなんですか?」


「猫人を圧迫するように、砦を建てる。

既にこちらは攻めているのですよ?」


 まず、心を攻める。

 これも、立派な攻撃さ。

 この世界には、孫子はない。

 一説を引用しても通じない。

 使徒の誰かあたりは、ドヤ顔でやってそうだが。

 俺からしたら、気持ち悪くて仕方ないな。


 アーデルヘイトの頭に、疑問符がついている。


「そうなのですか?」


 やはりそう簡単に、メソッドを理解してもらえないか。


「砦を建てたことによって、猫人に対して心理的圧迫を加えています。

これで猫人は、砦を意識して行動せざる得なくなるでしょう」


「確かに、意識はしますが……攻撃って感じませんね」


「砦に意識を向けないといけませんよね。

対処方法を巡って、下手をすれば攻撃派と慎重派が対立。

立派な攻撃ですよ」


 ゲームで言えば、毒攻撃ってやつだな。

 じわじわ効いてくる。


 キアラも昔を思い出したように苦笑した。


「このあたりの理論って慣れてこないと分からないですわ。

でも最後に、全てがつながるのですわ」


 アーデルヘイトが必死に考えている。


「後でゆっくり考えてみます……。

ですが……」


「どうかしましたか」


「まるで休憩になりませんでした……」


 知らんがな。

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