146話 ハーレム是か非か

 その夜は、珍しくキアラが俺の部屋にきた。

 話題は、アーデルヘイトの話。


 ミルは真剣な顔で、俺を見ていた。


「アル! その人の話を断ったの?」


 無論、愛人か側室の話である


「当然だろう。

俺にはミルがいれば、他の女なんていらないし」


「でも、不都合はない?」


 不都合って何だ。

 自然と不機嫌になってしまう。


「ない」


 キアラはミルを、少しだけ責めるような目で見た。


「お姉さま、お兄さまは明言されたのです。

お姉さまだけいればいい。

ほかの女性はいらないと」


 ミルは悲しそうにうつむいた。


「私は……アルが貴族で、領主だったから。

覚悟はしていたのよ」


 参ったな……。

 いろいろ考えていてくれていたのか。

 思わず、ため息が出た。


「ミルがいろいろ考えてくれたのは嬉しい。

そして気がついてやれなかったことは済まないと思う」


 俺はミルの肩を優しくたたいた。


「でもさ……女性を差し出して、地位や権力を望むのはいやなんだよ」


 ハーレムって聞こえはいいけどさ、女性をただの性欲処理の道具にするようなものだ。

 そして女性は、その立場を利用して権力を欲したりしても文句は言えない。

 そんな胃がもたれるようなプライベートはいやだ

 潔癖だの青臭いだのと笑いたければ笑え。


 キアラはミルを、少し優しくなった眼差しで見ている。


「お姉さま、お兄さまの愛を独り占めするのは重すぎますか?」


 ミルはため息交じりに、頭を振った。


「そんなことはないわよ、むしろ誰にも渡したくないもの」


「なら良いではないですか」


 ミルは俺が、肩に当てた手をそっとつかんで俺を見た。


「アル、本当にいいのね。

決めたらもう、浮気って絶対許さなくなるわよ」


 是非もない。


「良いも悪いも、最初からそのつもりだったさ」


 キアラが笑った。


「お姉さま、まだ、お兄さまへの理解が足りませんわね」


 ミルが膨れっ面になった。


「何よ、私だけ悩んで覚悟して馬鹿みたいじゃない」


 俺には良い言葉が思いつかない。

 照れくさくなって頭をかいた


「他の女とか考えたこともないから、俺にとっては当然すぎて……」


 キアラが、含みのある笑顔になった。


「お姉さま、お兄さまの愛が重たくなったのなら……。

いつでも、私が受け持って差し上げますわ。

ええ……いつでもどうぞ」


 いやまて……お前妹だろうに。

 ミルは予想外の返事をした。


「今はダメよ」


 今はってなんだよ。

 その含みのある言い方は。

 キアラが、ちょっとだけ残念そうな顔になった。


「あら、残念」


 何か、2人でまた結託してないか?


「2人でなんか企んでないだろうな」


 2人が、何か企んでいる笑顔になった。


「「いえ、別に」」


 追及してもダメだな……。

 俺はせきばらいして仕切りなおした。


「ともかく、女性がそんなことしなくても良いようにしたいんだよ。

女を差し出すのが当然ってのは、どうにも受け付けない」


 ミルが悪戯っぽく笑った


「なら一夫一婦って、法律で定める?」


 俺個人の趣向だからな。

 それにだ。


「移民してきた人の中に、多妻の人とかいたらマズいだろう。

強制的に別れさせることになってしまう。

やめておこう」


 キアラも含みのある笑顔のままうなずいた


「そうですわね。

それがいいと思いますわ」


 その笑顔の裏で何かたくらんでいるな。

 気のせいならいいんだが。


 ミルが何かに気がついた顔になった。


「アル。

その理論だと、ロッシさんの女好きっていいの?」


「別にかまわないよ。

本人たちが同意しているしね。

貢がせた揚げ句、二股掛けて捨てたとかでもなければね」


 そもそも、いちいち部下のプライベートに干渉してられない。


                  ◆◇◆◇◆


 翌日以降、ちょっとした変化があった。

 キアラが、ちょくちょく俺とミルの部屋に来るようになった。


 ミルがキアラに詰め寄った。


「ちょっと、キアラ! アルとの2人の時間を邪魔しないでよ!」


 キアラが、教師然とした顔になった。


「お姉さまがお兄さまの愛を疑うようなことをする罰ですわ」


 ミルの顔が真っ赤になった。


「疑ってないわよ! 何でそうなるのよ!」


 キアラとミルが言い合いを始めた。

 頼むからここで争わないでくれ。

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