140話 性悪婆にお任せ

 夜になり部屋に戻った俺は、バタっとベッドに倒れこんだ。


「あの婆さん苦手だ……」


 ミルが吹き出した。


「アルにも苦手なものがあるのね。

そういえばキアラがプリプリしていたわね。

それも関係している?」


「まあね。

あの性悪婆が、俺で遊んでいたからさ」


「あーそれは、プリプリするわね。

じゃベッドでうつぶせになって」


 俺は黙って言うとおりにした。

 そしたら、ミルが馬乗りになってマッサージを始めてくれた。


「お疲れでしょ」


「あ~ありがとう~。

性悪婆に汚された心が洗われるようだ……」


 しかし、エルフって、めっちゃ軽いのだな……。

 ビクっとしたようなミルの声


「もしかして……重い?」


「いや逆。

めっちゃ軽いなーと。

ちょっと感動している」


「大げさよ……。

でもよかった」


 もしかしたら、少し太ったのかもしれないが。

 だって…肉肉肉肉肉肉肉肉肉肉だし…。

 肉だけなら太らない。

 だが、味を変えるために炭水化物を多用している。

 つまり……そうなるわけだ。

 そんなことに触れる必要もない。


「それでさ、このままで昨日の続きをしていいかな?」


「いいわよ」


「今度マッサージのお返しをしないとな」


「楽しみにしているわよ。

それで昨日は、刺客を送るにしてもアルまでは届かないってことよね」


「そう狙うなら、ある程度の期間潜入してないと駄目さ」


「うん、そうよね。

それって無理なの? って肩こりすぎよ……」


「デスクワークばっかりだし……。

ともかく俺たちの町って特殊だし、グループごとに住むところ固まっているだろ」


「ああ、そうね。

知らない人が混じると目立つわね」


 ミルのマッサージが、実に気持ちいい。


「ミルの手は優しくて気持ちいいなぁ……」


「それは大事なアルのマッサージだもの」


「おっと、今は食料を金で買えないようになっているからね。

食わずに待つのも困難だろう。

さらに町の巡回の人たちは、見たことない人を見れば警戒するしね」


 あまりの気持ちよさに眠くなりそうだ……。


「そうね……知らない人が紛れ込みにくいようにしてあるの?

って……背中もカチコチね……」


「下手に運動もできないんだよ……。

そこまで、意識をしていたわけじゃないよ。

でも自分たちの町って思ってくれれば、他人への無関心は減ると思う」


 日本の田舎のように、干渉しすぎもマズいのだけどね。

 今は団結力を優先してする。

 徐々にプライバシーを大事にしていきたい。


「そうね……。

それじゃ、刺客は無理なのね。

今のところ」


「ただ、性悪婆の一団に紛れ込ませることは可能」


 ミルの手が、ピタっと止まる。


「どうするの?」


 丸投げできるなら丸投げする。

 自然と面倒くさそうな声になる。


「性悪婆に任せる。

何とかするだろ」


 ミルの声に、疑問が混じった。


「そんなに優秀なの?」


 ただし粘着質だ……。

 年をとると、粘り気でもでるのだろうか……。


「ああ……。

頭は、かなり切れる。

何で森に潜んでいたのか謎。

そのうち聞くさ」


「アルはできるだけ、新しく来る人たちの前にでない方がいいのかな」


 と言いながら、マッサージを再開してくれた。


「いや。

暗殺より、もっと怖い話があるんだよ。

俺を暗殺するより、成功率が高いもの」


 ちょっと心配そうな声になった。


「何が?」


「子供を誘拐して脅迫する。

そして俺たちを呼びつけて始末する。

もしくは子供を殺して攻撃せざるを得ない状態に追い込む」


 さらに心配そうな声になった。


「そんなひどいことする?」


「猫はもはや、ただで済むとは思ってないからね。

必死になるさ。

そして子供たちは、新しい住民にもそんな警戒しない」


「そうか、むこうにも子供はいるしね……」


「そこまで猫に協力する必要を感じるか……。

そこが問題かな」


 少し安心したような声になった。


「そう、じゃあ大丈夫なのかな?」


 うーん、かえって不安をあおるようなことを言っていいものか……。


「アルー。

キリキリ吐きなさい」


 速攻バレタ……。

 観念して白状する。


「無理やりさせることは、一応可能なんだよね」


「どんなふうに?」


「新しく来る人たちの子供を、猫が誘拐していて脅迫して動かす。

こっちの子供とさらった子供と交換」


「そ、それ……どうすればいいのよ」


「そこも性悪婆に任せる」


 マッサージする力が、妙に強くなった。


「それで解決するの?」


「新しい人たちの家族構成を知らない。

知っている人に任せるしかないよ」


「それはそうだけど……。

誘拐するにしても、どうやって連れてくの?」


 結構きわどい話をしているのに、緊張感がない。

 マッサージのおかげか。


「船」


「ああ。

船で来たのよね……」


「それより成功率が高いのは、子供の殺害なんだけどね……」


 ミルの声が、ちょっと悲しげになる。

 俺が子供を人質にした男を、バッサリやったことは当然知っている。


「それをやったら、その人もただじゃ済まないよね」


「そう……。

無理強いさせて、捨て石にする」


「ちょっとひどい話ね」


 キアラに相談してみるかな。

 それもよくないな……。

 前世の生まれがマフィアの町だったからと言って、手口を知っている……とは限らない。


「まだ移住者が来るまで、時間がある。

明日みんなと相談しようか」


 マッサージの力が優しくなった。


「そうね、何事もないのが一番なのだけど……」


「ミルのマッサージは、気持ちよくて、癖になりそうだ」


「気に入った?」


「とってもね」


 そのうちに、眠りに落ちてしまった。

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