139話 人生の質を重視するタイプ

 やれやれ、このマガリ性悪婆面倒くさい。

 思わず頭をかく。


「そんな大した話ではないのですよ……」


マガリ性悪婆が、またニヤニヤ笑う。


「大したことだよ……アタシにはね。

実に興味深い」


 苦手だ、このマガリ性悪婆……。


「後ろにいた2人、


マガリ性悪婆が目を細める


「疑問の理由はあるんだろうね」


「そこまで確証のある話ではないですよ。

あなたたちの情報は、ほとんどないのですから」


 マガリ性悪婆が、ニヤニヤ笑い出す。


「ほれほれ。

年寄りをじらすもんじゃないよ」


「いえね、全員が素直に我々に合流してもいいと思っているのかと」


 マガリ性悪婆が考え込む。


「ふむ……。

アタシたちを疑っていると?」


「そこまで深刻な話ではないのですよ」


「ほーう」


 俺が考えなしに受け入れているとでも思っているのだろうか。


「私を狙った攻撃をした、そんなところに移住。

結構怖くないですか?」


「なるほどねぇ」


「そもそもあなたが自ら来たのって、最悪にするためでしょう?」


 過大評価だよと言わんばかりに、マガリ性悪婆が苦笑した。


「アタシはそこまで酔狂じゃないよ」


 つまらない茶番に付き合うのも疲れる。


「あなたのような人は、自分の命を最優先に考えるタイプではないでしょう」


「いや違うねぇ。

それならアタシは、とっくにあの世にいってるよ」


 ほんと素直じゃねぇ。

 年をとって、血管だけでなく心まで粘着性をもっている。


「違いますね。

頭が切れて決断力もある、そしてここに来て楽しんでいる」


 総合計なら年は、アンタと同じくらいだよ。

 余りガキだと思って舐められても面倒だ。


「そんな人は、ただ自分の命を優先しません。

むしろ人生のタイプでしょう。

それに保身だけ考える人は、犠牲のでる作戦を立てませんよ」


 からかう様子だったマガリ性悪婆から、表情が消えた。


「アンタ、何者だい?」


 マガリ性悪婆に、ニヤリと笑い返す。


「貴族のボンボンで、ただの17歳ですよ」


 マガリ性悪婆が諦めたようにため息をつく。


「それで、1人のときに話をした理由がまだだね」


 俺への追及は、無駄と悟ったようだ。

 ざまあみろ。

 だがこの婆さん粘り気が強い……。


「彼らは護衛ではなく処刑人でしょう」


 こいつは何を考えているといった感じで、マガリ性悪婆は疑わしげに俺を見た。


「処刑人だって?」


「あなたの首を差し出して、手打ちにするための人間ですよ。

私はあなたを殺すつもりなんて毛頭ないのでね」


「手打ちにさせるなら、処刑人なんて別にいらないだろ?

アタシ1人でくれば済む話だよ。

それに、自分たちの仲間を殺すより殺させた方がいいだろ」


 無駄な抵抗を……いや道楽だな。

 こんな話ができるオモチャは、滅多にいないとでも思ってそうだ。

 実に面倒くさい……。


「いえ。

あなただけだったら、かえって疑われます。

結果的に部族全体が信用されない可能性がある。

それに結果を、誰が伝えるのです?

使い魔で知る情報は、あくまで非公式ですからね。

誠意って我々に殺害させるより……自主的に首を差し出した方が、より伝わると思いません?

部族全体の恨みが、我々に向かないように考えているでしょう」


 ほんとこのゴムテープのように張り付いてくる。

 マガリ性悪婆を早く剝がしたい。

 口調に面倒くささが露骨に混じる。


「合流した先に恨みもたせるなんて無駄死にって考えるでしょう。

ただの自滅行為ですしね」


 マガリ性悪婆が、小刻みに震えて笑っていた。


「いいねぇ。

やっぱりいいよ、坊や。

でもまだだよ」


 アンタはゴムテープから、アロンアルフアに訂正だよ。


「で、何がご不満ですか?」


「とぼけるんじゃないよ、まだ理由を言ってないよ」


 さっき言っただろうに……。


「私への襲撃計画の話がでたら、有無を言わさずにあなたを殺して手打ちにする予定だったのでは?」


「坊やが許すって言ったら、意味ないだろ」


「ところがですね……。

困ったことがあるのです。

そう言っても、最初はのですよ。

私への襲撃を計画しなかった人たちですらね。

計画した人たちが信じられますか?」


「ま、無理だろうね」


「あなたのことです。

状況が詰んでいて、白旗を上げるしかないことを皆に説明。

そして最後に、こんな感じで皆を説得したのではないですかね

『襲撃はアタシの計画だ。

聞かれたらアタシの首で、手打ちにしてもらいな』

といったふうですかね」


 何でそんなことを知っているといった感じで、マガリ性悪婆が驚いた顔になった。


「だが、結局聞かれなかった。

全くもって予想外だったがね。

何でアタシが、2人を戻したと思ったんだい?」


「2人でないと、仮に帰路で襲撃があったときに殺されるでしょう。

念のためですよ」


 ペースを取り戻したらしいマガリ性悪婆が落ち着いたのか、楽しむような顔になった。

 あと、少しで剝がれそうだったのに。

 くそう……。


「それならもっと大人数できたんじゃないかね」


「いえ、最悪全員殺されることも覚悟したでしょう。

先ほどの襲撃の損害とイノシシとの戦いで、人は減らせない。

本来はあなた1人で来たかったのでしょうね。

ギリギリのラインが3人ってところでしょう。

絶対に信用のおける腹心があの2人。

それ以外はそこまで信頼していないでしょう。

能力の面でね」


「ついでだ……。

婆の楽しみに付き合っておくれよ」


 もういいでしょ…。

 俺は露骨に面倒くさい表情になった。

 絶対に俺はああならんぞ。


マガリ性悪婆が、俺の表情を無視して楽しそうだ。


「仮にアンタに聞かれなかった場合、どうすると思ったんだい?」


「あなたから話をしに来るだけでしょう」


「ふむふむ、いいねぇ。

では最後に一つ。

アタシが殺されたあとに、住民が移住なんて危険じゃないのかね」


「事前に状況を確認させるでしょう。

それと我々が移住してくる住民に、害を加えないと確信しているでしょう」


「ほうほう、なぜだね」


 アンタもう分かっているだろう。

 俺はため息をついた


「やれやれ。

我々が他部族を同化させて勢力を広げる方針……なのは知っているでしょう」


「そうさね」


「それで移民を害するなんて……ただの自滅行為ですよ」


マガリ性悪婆が、ニヤニヤを深めていった。


「そりゃそうだね」


「屋敷に来るまでに、他の種族がどうなっているのか。

しっかりと見ているはずです。

私の方針が、本心だと悟ったでしょう」


 パチ、パチパチ。


 マガリ性悪婆がまた拍手した。


「そろそろ解放してあげるとするか。

隣のお嬢ちゃんの殺気がすごいことになっているからね。

お嬢ちゃんが出せる殺気じゃないよ」


 キアラが、無表情に言った。


「私のお兄さまで遊ばないでください」


 どっと疲れたまま、俺はマガリ性悪婆の部屋をあとにした。

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