134話 16歳ピーク説

 結婚してから、俺はポンコツになっている気がする。

 マズいな……愛想をつかされるなんて御免だ。

 それはないだろう、だが男としての沽券の問題でもある。

 いい加減立て直さないといけないな。


 改めて痛感した。

 この世界の動物の成長は早い。

 前世の倍以上の速度だ。


 魔物が生息しているから、死亡率が高い。

 そのせいで、多産かつ成長が早くなるように進化したのだろう。


 ただ……。

 あそこまで、早くて多いとは思ってなかった……。


 おかげで『肉肉肉肉肉肉肉肉肉肉』だよ!


 使徒ばかり考えて、食に関する大事な情報は無関心とか。

 現地の猟師とか部族なら、さすがに知っているだろう。

 それでも、あくまで現地のみだ。

 駄目すぎだろ、この世界。


 みていろよ、ひっくり返してやるからな。


 それは、それとして問題がでてきた。

 火をつけたのはいいけど、火事が大きくなりすぎた。

 涼しい顔をしているが、内心焦っている。

 どうやって、火を消したものか。

 単純な理論としては増えるより早く倒せばいいのだが。


                  ◆◇◆◇◆


 そんなことを考えていたら、キアラに呼ばれていた。


「お兄さま。

考え事はそこまででお願いします」


 代表者会議で考え込んでしまっていた。


「ああ……すみません。

イノシシ騒動をどう収集しようかと思っていました」


 チャールズが珍しく遠い目をした。


「食料は困らなくなりましたが、さすがに飽きてきましたなぁ……」


「余剰分は本家にも送って、交換物も種類を増やしましょう」


 代表者会議に引きずり出され、常連と化したジラルドが挙手した。

 俺はうなずいて話を促した。


「皮や骨は、活用方法があります。

腐らないように処理をさせたいのですが、数が多くて処理が追い付きません。

また、内臓でも使わない部分の処理が追い付かなくなってきています。

全部をソーセージにできませんからね」


 なし崩し的に会議の常連になったデルフィーヌが元気に挙手する。

 おっとりしているようにみて、ギルドの受付をやっていただけのことはある。

 結構テキパキしている。


 本来はデスピナさんも出席してほしい。

 だが子供を置いては、不都合があるので遠慮している。

 俺は同じようにうなずいて話を促す。


「子供たちに手伝ってもらえないでしょうか。

緊急事態ですし、危険もないですから。

内臓とかの処理方法は分かりませんが」


 堆肥化にしてもなぁ……。

 ベースとなる糞尿がないしな。

 匂いも強烈だ。

 この世界の技術では、そこまで至ってない。

 先生が俺の渋い顔を横目に、気軽に笑っている。


「川に流せばいいんじゃないか?」


 下手すると、プランクトン大量発生で海がヤバくなる。

 転生前の世界より、影響がでるのは確実に早いはずだ。


「いえ。

量が多すぎると、漁業に影響がでるでしょう。

多分……海に異変が発生して魚が大量死しますよ。

今の状態で、魚の漁獲量を減らしますか?」


 一同沈黙。


 ラボ・ヴィッラーニが挙手した。

 俺は、発言を促すことにした。


「どうぞ」


「穴を掘って埋めてはどうでしょうか。

焼くにしても木材は、家屋の建築で重要ですし」


 確かにそうだな。

 単純ではあるが、有効かぁ。


「全部を一つの方法で処理する必要もないでしょう。

民生省で処理方法を検討してください。

川に流すのも一部なら大丈夫でしょう」


 処理に関しては丸投げしよう。

 子供の労働力については、皆の意見も聞いておくか。


「子供に手伝ってもらうことについて、皆さんはどう思われますか?」


 先生が腕組みをして、俺を伺うよう表情になる。


「良いんじゃないか? 

ただ……この緊急事態がいつまで続くのか、めどは立てないといけないだろう。

子供に聞かれるだろうしな。

分からないといって理解するのは大人だけだろ?」


 確かに、そうだな。

 子供には、終了時期を教える必要がある。

 最大限そこまでの期限でないと飽きてしまうからな。


「そうですね。

子供を労働力して考える期間は、数ヶ月をみています。

半年以内ですかね……。

それ以上はまだなんとも。

そこで数を制御しようと思います。

イノシシの分布を考えて、一部をちょっと追い立てようかなと」


 ミルが不思議そうな顔をする。


「そんなことできるの?」


「ある程度は……ですけどね」


 一同が顔を見合わせた。

 チャールズが、意地悪く笑った。


「ようやく、ご主君がご主君らしくなってきましたな」


 先生も、意地悪く相槌をうつ。


「16歳のときだけ異常なのかと、噂がでたくらいだしな」


 オラシオまで笑っている。


「16歳までがピークで、17歳になって急激に劣化したといわれていたしな」


 お前ら皆ひどいぞ。

 トウコまで追撃戦に参加した。


「奥方に骨抜きにされたといわれていたな」


 キアラは、笑いながら片方の頰を引きつらせる器用な芸当をしている。

 ミルが真っ赤になって立ち上がった。


「ちょ! ちょっと! 別に結婚してから、そんな回数は増えてないわよ!

……ってぇぇぇぇぇぇ」


 ミル、なんで自爆しているのだ……。

 ミルはオロオロと隣の俺に救いを求める仕草をしている。

 ただ放置もできないしフォローしないとな。

 俺はわざとらしくせきばらいした。


「ともかく……。

17歳になったからといって、特に変わっていませんよ。

ただ結婚して浮かれていたのは事実ですが」


 チャールズがフォローになっていないフォローをする。


「良いんですよ。

ご主君が普通の人間だと立証されて、皆安心したのですからな」


 くそう……。

 俺が、皆の娯楽道具になっている。

 ともかく、話を戻さねば。


「猫人の領地に近い旧農地を焼き払ってください」


 先生が意味不明といった顔になった。


「焼くだと?」


「イノシシさんたちも簡単に栄養がとれる場所がなくなれば、次の場所を求めて移動するでしょう」


 先生が将来を予想してか天井を見あげている。


「それでイノシシは、こっち側に全部来る危険はないのか?」


「1部は流れてくるでしょうね。

ただ焼くだけなら、旧農地から拡散するだけでしょう。

なので……こっち側にこないように、ある程度焼く範囲を広げてほしいのです」


 エイブラハムが目的を理解したようだ。


「なるほど、誘導ですか……。

ですが、1点確認しても?」


「どうぞ」


「焼いた後は、しばらく農地としては使えなくなります。

そこは大丈夫なのですか?」


「他からの収穫で対処します。

焼くのは1部分だけです。

農地として再度使用できるようになるのはどれくらいかかるか、それは知っておきたいですね」


 オラシオが考え込む


「われわれは焼いて農業などしたことがないからな」


 一同が難しい顔をするなか、1人キアラがニッコリ笑った。


「本家に問い合わせれば、マリオが頑張って聞き出してくれますわ」


 また、マリオが痩せるのか……。

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