133話 肉肉肉魚肉肉肉

 いよいよ、イノシシが狂乱し始めた。

 こんなものを利用する羽目になるとは。


 差し当たり、こちらの食を満たす分はある。

 そして大きな変化がもう一つ。

 猫人の動きが止まったのだ。

 やはり、対処で手一杯らしい。


 そして、大きな問題が発生した。

 イノシシの肉の供給量が、予想を超えた量なのだ。


 そう、飽きる。

 つまり、住民からの不満の声だ。

 ずっと、イノシシの肉ばかりだと飽きる。

 違うものが食べたいと。


 1週間が、こんなペースだ。


 肉肉肉魚肉肉肉。


 肉のデザートは、内臓から作られたソーセージといった始末。


 俺だって分かっていたから、急いで手を打っているんだよ。

 でも干し肉との交換も手配したけど……。

 そこまで、頻繁に本家と往来があるわけではない。

 魚を取りすぎるとあとがマズイ。


 農作物だってすぐには取れるわけもない。

 正直お手上げ。


 代表者会議で俺は、初のギブアップをせざる得なくなった。


「さすがに今回は私の頭で解決は無理! 

誰か……良いアイデア下さい。

飢えさせないこと。

できるだけ不満がでないように、考えたけど……ダメです。

台所の知恵は、女性陣に丸投げしたいです」


 と泣きを入れたら、全員に爆笑された。


 結果、女性陣が率先して工夫をしてくれることになった。

 住民たちも、俺が会議で泣きを入れたと噂が広まったら大人しくなった。

 さすがに、我が儘だったと自覚してくれたらしい。


 何だろう……。

 一生懸命考えたことがさ、会議で泣き入れたら解決っておかしくね?


                  ◆◇◆◇◆


 ついつい、ミルとキアラとの3人だけのときに愚痴ってしまった。


「といったように、俺は世の中の理不尽を嘆いている」


 2人に笑われた。

 キアラが笑いすぎて涙目になっていたが、息を整えて涙をぬぐった。


「それは、お兄さまが今までどれだけ皆のために頑張ってきたか。

皆知っているのですわ」


 ミルは俺に苦笑にも似た表情を向けた。

 涙目にはなっていない。

 笑ってはいたが、眼差しは優しかった。


「そうそう。

あのアルが降参したくらいだからね。

要求が我が儘だって、皆気が付いたのよ」


「そんなものなのか?」


 キアラは俺の不満顔にまだ笑っている。


「そうですわ。

お兄さまって、戦略に思考が特化していますもの。

台所の細かい事情までは考えられないでしょう」


 ミルは俺の手を握ってウインクをした。


「飢え死にさせないまで……考えてくれればいいのよ。

そこから先は任せてしまえばいいの」


 今一納得がいかない。


「うーむ、そんなのでいいのかなぁ」


 キアラはまだ不満な俺を見て、小さく肩を竦める。


「お兄さまがイノシシの肉の味で悩み続けたとしますわ。

結果的に争いの対策が遅れて、犠牲者がでたらどうするのですか?」


 それは間抜けだろう……。

 ミルも笑いながらうなずいた。


「そうそう。

アルは、皆に考えろと言うけどね。

何でも自分で考えようとしているわよ」


 俺はちょっと恥ずかしくなって、頭をかいた。


「分かった。

俺は戦略にだけ注意することにするよ。

台所関係の采配は、2人に任せていいかな?」


 2人は顔を見合わせて、また笑いだした。

 ミルが笑いながら言う。


「そんなこと言わなくても『あとは勝手にやってくれ』でいいのよ」


 キアラは余程ツボに入ったのか、また笑いだした。


「お兄さま。

戦略と肉の味を同列に話すのは、ちょっとおかしいですわよ」


今日は女性陣に、1本取られっぱなしだ……。

俺はどうも空回りしているのかな。

少し、肩の力を抜くか。


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