131話 白い衣装は恥ずかしい

 いよいよ、結婚式と祭りの日になった。

 前世では縁がなかったのもあるが、どうにも落ち着かない。

 今日は親衛隊隊長のジュールが、護衛担当になっている。


 結婚式はファーストルックと決められたので

 別室でミルの準備が終わるまで待っているわけだ。


 白い衣装って着たことないのだが……めっちゃ気恥ずかしい。

 かといって……なろうテンプレの黒い衣装なんて言い出したら確実に殺される。


 部屋をくるくるループしている俺を見て、ジュールはあきれ顔だ。


「ご主君……花嫁は逃げません。

落ち着かれては?」


 分かっている、だが……落ち着かないのだ。


「ああ、どうにも落ち着かなくて……」


 付添人のキアラが苦笑している。


「久々に年相応なお兄さまが見られましたわ」


 延々回り続けると、さすがにキアラに怒られた。


「お兄さま、座っていてください。

黒歴史になりますわよ」


 動を止めて、すごすごと椅子に座る。


「巡礼に出る前は、まさか1年後に結婚する。

そんなことは、夢にも思わなかったですね……」


 キアラも、遠い目をしてため息をついた


「私も驚天動地ですわよ」


 何となく、感傷に浸っていると俺が呼ばれた。

 別室にミルが待っているので、部屋にノックして入る。


                  ◆◇◆◇◆


 思わず見とれてしまった。

 薄緑のドレスで、神秘的な感じがする。

 今日は、髪をアップにしていてまた新鮮だった。

 写真をとりたい……心底思った。


 ミルが、ちょっと恥ずかしそうに聞いてくる。


「どうかな……」


「余りに奇麗で見とれてしまったよ……」


「あ、あ、ありがとう。

アルもその衣装似合っているわよ」


 背中がむずがゆくなる時間が過ぎて、2人で腕を組んで会場に移動する。

 街の象徴として造った像の前で、式を挙げることになる。


 俺の付添人はキアラ、ミルの付添人はシルヴァーナだ。

 (さすがに今日は、喪女とつける気にはならない)


 女たちが考えた、式のプランの初実践となる。

 頑張って、宗教要素0で考えてくれたようだ。

 後日反省会をするとか誰かいっていたな。


 まず、新郎新婦は、像の前で向き合って愛の宣誓を互いにする。

 この時点で恥ずかしさMAXだ。


 付添人が宣誓を聞き届ける。

 そして婚姻誓約書に聞き届けた印として、サインをそれぞれする。

 キアラは当然だが、シルヴァーナも真面目にやっている。

 その誓約書は都市の文書保管庫に保存されるそうだ。


 互いのために用意したネックレスを、付添人から受け取って互いの首にかけるのだが

 俺はシンプルにした。

 ミルのネックレスも邪魔にならないシンプルなものだった。

 俺が、そうすると思って合わせてくれたようだ。


 新郎新婦が成婚の口づけをする……。

 勢いでやったことはあるが……恥ずかしい。

 だが、ここで変に躊躇するのはミルに悪い。

 できるだけ、スマートにやったつもりだったが……ぎこちなかったらしい。


 花嫁がブーケをトス。

 ミルが後ろを向いて、軽く投げた。

 お約束というか……デルフィーヌがゲットしていた。

 当然、騎士団中から冷やかしの口笛が吹かれた。


 あとは式場(今回は屋外)で飲み食いのパーティーとなる。


 後日、みんなに揶揄われたが俺はカチコチだったらしい。

 揚げ句、マノラにまで笑われたよ。

 というか頭真っ白。


 ミルの方は余裕だったらしい。

 それ以上に俺のカチコチぶりを見て、笑いを堪えるのに必死だったらしい。


 パーティーが終わると、花婿は花嫁を抱きかかえて家の門をくぐる。

 屋敷の扉は、事前に開けられている。


 やっぱり、ミルはすごく軽かった。

 緊張しまくった結婚式は、こうやって終わった。


 ちなみにドレスは、似たサイズの人がいたら別の挙式でも使えるようにするそうだ。

 都市の空いている建物を、婚姻記念館としてそこに保存するとなった。

 婚姻記念館では皆が見られるように、衣装が飾られることになっている。


 自分たちで用意してもいいし、以後このストックから貸し出しも可能になる。

 公人の結婚式のドレスは、ここに入るそうな。

 自前で作ったら、その人のものになるけどね。

 こんな話に関しては、女たちのパワーはすごいな。


 部屋に戻ってから普通の服に着替える。

 ベッドで2人ぐったりしてた。


「疲れた……」


「ええ……。

こんなに気疲れするとは思わなかったわ……」


「今日は何事もなく終わって良かったよ」


 ミルが苦笑いした。


「ええ、ほんと良かったわ。

でもここに来て、ずっと同棲していたから今一実感が湧かないわね」


「そうだな……でも区切りって感じだしな」


「あ、今日から私ミルヴァ・ラヤラ・デッラ・スカラになるの?」


「そうだよ」


 ミルがニコニコしていた。


「そっかー」


 それを見て、思わずいいたくなった。


「今日は、何も考えずにミルのことだけ考える」


 ミルは驚いて赤面。


「ちょっと! 結婚してからいきなり口説くようなセリフをいわないでよ」


「いわない方がいいか?」


 ミルは頰を赤く染めて横を向く。


「知らないわよ!」


 そういいつつ、体を寄せてきた。


 ほんと今日だけは、戦略とかは封印しておきたい。

 明日からはまた、悪魔の領域での戦いになるのだから。

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