130話 子供の事は子供に頼め

 こいつにだけは言われたくない、そんな事ありませんか?

 アル中に健康を注意される。

 肥満体ファットマンに運動不足を指摘されたりだ。


 お前にだけは言われたくない。

 声を大にして言いたくなりませんか。


 喪女シルヴァーナに、常識知らずみたいに言われた俺。

 まさにそんな気分です。


 硬直していたデスピナがやっと動きだした。


「いえ、それだけですが……」


「では、子供たちへの読み書きの教師をお願いしても良いでしょうか。

それならお子さんから、目を離さずに済むでしょう」


 そのまま、頼みたい仕事の説明に入ろう。


「回復術もできれば教えていただきたいのですが、それはもう少し落ち着いてからで良いでしょう。

回復術も教えていただける場合は、賃金は割り増しでお支払いします。

詳細は私の妹のキアラと相談してください」


 とキアラを紹介する。


「アルフレードの妹のキアラですわ、以後よしなに」


 デスピナが何かを言いたそうにしている。

 何を言いたいかは分かっている。

 俺にとっては、どうでも良いことだ。

 あえてすっとぼける。


「1人だけ子供に、文字を教えているデルフィーヌ・マシア嬢がいます。

あとでその人も紹介します。

そのあたりの調整もお願いします」


 喪女シルヴァーナが、耐えきれずに笑いだした。


「ピナ姉。

アルにとっては種族なんて、どうでもいいのよ」


 ちょっとその言い方は腹が立つ。


「どうでも良くはないですよ。

獣人たちが、公衆浴場に入ったときに毛が多く湯に浮いてしまう」


 これ結構深刻なのだが…


「その問題を、どうしようかって悩んでいるんですよ」


 ジラルドとデスピナが硬直している。

 そろそろ、茶番は済ませるか。

 真面目腐って言う。


「私が市民に問うのは、ただ一つです。

ラヴェンナ市民としての決まりを守れるか……その1点のみです」


 あ、あと1点あったな。


「あー、あと……2日後に、この町で祭りと私の結婚式があります。

よろしければ顔を出してください。

その間ちょっと騒がしくなるとは思います。

静かな環境が良いのでしたら、そこだけご勘弁を」


 俺は喪女シルヴァーナと目で合図をした


「ではあとのことは、シルヴァーナさんと詰めてください」


 そう言って、俺が部屋を出ようとすると

 ジラルドとデスピナに呼び止められた。


「「以後、よろしくお願いします」」


 と頭を下げられた。

 アルシノエもお菓子を握りながら、ちょこんと頭を下げた。


「こちらこそ」


 俺も短く返して部屋をあとにした。


                  ◆◇◆◇◆


 キアラが、クスクスと笑いだした。


「お兄さまの対応に仰天されていましたね」


「別に驚かせる気はないのですがね」


 親衛隊のアレ・アホカイネンが苦笑しながら言った。


「さながらご主君は、歩く仰天製造機ですな」


 ひどい言われようだ。

 とはいえ、子供の教育係かできたのは有り難い。


 あとはあの子か……。

 生い立ちからして、友達は作りにくいだろう。

 人見知りも激しい。

 手を打っておくべきだな。


 そんなときは、子供のボスに頼めば良い。

 俺はその足で、マノラの見舞いついでに根回しに向かった。


「あ、領主さまー」


 今日も元気なようだ。


「やあ、マノラ。

元気ですか?」


「うん! 領主さま! もうすぐ結婚するんでしょ」


「ええ、そうですよ」


 マノラがキアラのお願いポーズをまねした。

 変なことをまねしなくても良いのだが……。


「あたしも結婚式に出ても良い?」


「お医者さんがいいよって言えば、良いですよ」


「もう大丈夫だよぅ」


 子供は、体力が有り余っているからなぁ……。

 皆が騒いでいるときに、病室でじっとしていろ……ってのも酷だな。


「大人しく座っているなら良いですよ」


「うん! おとなしくしてる!」


 ほんまかいな……。


「今日は、マノラにお願いがあってきたのですよ」


「なあに?」


 余計な前情報は不要だろう。


「新しく1人子供が来たのです。

恥ずかしがり屋さんだけど、できればお友達になってあげてもらっても良いですか?」


「うん、いいよー」


 よし、ボスの承諾は得たぞ。

 面倒見もいいから、きっとこれで孤独になることはないだろう。

 屋敷に戻る際に、アレ・アホカイネンがあきれたような……感心したような感じでつぶやいた。


「ご主君は本当に子供好きなのですなぁ」


 訳アリの住人で子持ち。

 重要なのは、子供が安心して生活できる環境だ。

 そうと分かれば落ち着いて、力を発揮できるだろう。

 そのためだ。

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