122話 17歳狂騒曲

 一罰百戒と言ったところか、あれから表面上は穏やかになっている。

 だが俺の周りは、やけに慌ただしい。

 それはなぜか?


 俺がもうすぐ、17歳になるからである。

 転生前でさ……オッサンだったときに、もう誕生日なんてどうでも良くなっていたのよ。


 ここだと、そうはいかない。

 この娯楽のない辺境では、俺は領民の主要娯楽と化している。


 なぜだ。


「16が17になる程度でしょう。

そんなくだらないことに予算かけるより、他に使った方がいいですよ」


 と言ったが却下された。

 チャールズが、やれやれといったポーズを取った。


「ご主君、分かっていませんな。

バカ騒ぎをするための口実ですよ」


「お祭りは否定しません。

皆さんが楽しめるなら、定期開催はした方がいいですよ。

でも私の誕生日なんて祝わなくてもいいでしょう」


 キアラがばっと立ち上がって、力説を始めた。


「お兄さまの誕生日は、とても大切なものなのです。

本来ならもっと、盛大にやるべきなのですよ!」


 妹よ……大きなお世話って言葉があるのだよ。

 人ごとだから、薄情な先生が薄笑いを浮かべた。


「ま、諦めるんだな。

良いじゃないか坊主、160歳とか言われなくなるぞ」


 全然良くねぇ。


「どうせ170に変えるだけなのですよね」


 先生が真面目くさって腕組みした。


「いや……ここでも論争があってな。

161派と170派が、熱い戦いを繰り広げていたぞ」


 俺はきのこの山、たけのこの里かよ……。

 ミルが手を上げた。


「いっそ、ラヴェンナの祝日にすればいいんじゃない?」


 ミル……お前まで話を大きくするのか。

 チャールズが、楽しそうにうなずいた。


「それは名案ですな。

それはそれと、良い加減に正式にご結婚されないのですかな?」


 ミルが頰を赤らめながら、チラチラと俺を見る。


「えーっと、私は何時でもいいのよ。

ほんと……もうしていてもいいのよ。

でもアルがね……」


「まだ町もできてなくて、恋人だっていない人も多いのですから。

そこで私だけ結婚してしまっていいのかと……」


 チャールズが、心底あきれた顔になった。


「ご主君。

同棲しておいて、何を訳の分からないことを言っておられるのですか」


「いや、まあ……そう言われると……そうなんですけどね。

私としては鉱山の療養町ができたら、新婚旅行ついでにとは思っていました」


 チャールズが、なぜか納得しない。


「それでは遅いですな……」


「なぜロッシ卿は、私の結婚時期を気にするのですか?

ご自身が結婚を遠慮しているとかなら、そんなの不要ですよ」


 チャールズが首を振った。


「そんな酔狂なことしませんよ。

部下のロベルト・メルキオルリ。

あの純愛主義者、御存じでしょう」


「ええ、メルキオルリ卿が何か?」


「デルフィーヌ・マシア嬢と結構いい感じなのですよ。

驚いたことに。

まだ、おっかなびっくりって感じですがね」


 めっちゃ早くね?


「あの時代錯誤の純愛主義を、マシア嬢が気に入ったらしいのですよ。

最近よく2人でいるのを見かけていますよ」


 おおぅ……これは予想外だ……。

 ニヤリと、チャールズが笑った。


「考えてみてもくださいよ。

あのカタブツが、ご主君より先に結婚すると思いますか?」


「た、確かに……」


「恋愛即結婚なんて、私からしたら目についた山のキノコを食うようなものですがね。

そこまで考えているでしょう」


「それで、私に早く結婚しろ……と?」


 チャールズが、身を乗り出した。


「正式な貴族の結婚でなくて良いのですよ。

それにあんなことがあったあとです。

奥方だって早く結婚したがるでしょう。

ラヴェンナ式としての形式を作ってくれればいいのです。

ついでに17歳の誕生日と一緒にやればいいでしょう」


 おい、あと1カ月ないぞ。


「いろいろ準備があるでしょう。

形式を決めたり、衣装の準備をしたり……」


 ミルが大乗り気で立ち上がった。


「素敵ね! いいわね! やりましょう!」


 キアラがうなずいて、パンと両手を合わせた。


「そうですわね。

お姉さまも正式に名字をもらいたいでしょうし。

よろしいかと思いますわ。

お兄さまも正式に結婚なされば、あんな無茶はしなくなるでしょう」


 あれを持ち出されると弱い。

 さすがに、結婚式の形式なんてしらんぞ……無縁だったし。


 先生が良いことを思いついたような顔になった。


「ああ……それなら、一生独身の可愛そうな女がいたろう。

あいつも計画に参加させてやればいいだろ」


 先生……そうやって余計なこと言うからひどい目にあうのだよ。


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