121話 名前の暴力

 2人に泣いて抱き着かれたあと、部屋に連行されました。

 まず手当はしてくれたけど、ただのかすり傷だったよ。

 痛いけど。


 泣きながらの説教、反論しようがないのがつらいところ。

 しかも相手が2人。

 これの意味、分かりますかな。

 感情が増幅してさらにひどいことになるのです。

 ええもう。

 時々、声に詰まったりされると……ものすごーーーく悪いことをした気になる。


 俺には、俺の理屈がある……のだけど。

 勢いが違い過ぎてかなわない。

 現実逃避をするしかない……。


 そういえば、前にキアラはイギリス人ぽいと思ったが

 ミルは……ロシア人に近いイメージだったな。


 隠れて暮らしていたせいで、服をそんなにもってなかった。

 実はおしゃれにコダワリがある。

 服を買うときのコダワリは地味にすごかった。

 開拓地では、そんな贅沢はできない。

 巡礼のときにプレゼントした服を、大事に使いまわしている。

 アクセサリーとかも自作するときがある。


 あと結構自分の意見は、ハッキリ言う。

 俺に対してはかなり、気を遣う。

 代表者会議なんかでは、わりとストレート。


 他人には温和だが、感情はそんなに出さない。

 親しい人には、わりと感情豊かになる

 俺には、別人のように愛情表現がものすごく強い。


 日本人に近いかなと思ったが……。

 俺に対しての愛情表現は、全く照れがない。

 最近、その表現もだんだん激しくなっている気がするが。


 そのあたりは、日本人とは違うなー。

 そうなるとロシア人ですかな。

 色白で美人だし……でも太ったりしないよね。


 と考えていたら、耳を引っ張られた。


「イテテッ」


 ミルは目を真っ赤にして怒っている。


「アル、別のこと考えてたでしょ!」


 怒られた。


 かくして説教は、3時間も続き……。

 1週間の外出禁止令が下された…ひどくね。

 そして、その夜は寝かせてもらえなかった。

 しつこいくらい傷の心配をされて、大丈夫だと納得させてからが……凄かった。


                  ◆◇◆◇◆


 16歳だからさ…わりと起きてられるけど。

 やっぱり寝たくなるのよ。


 そんな眠気と戦っている中。

 ジュールが3人の兵士を連れてやってきた。


「ご主君、遅くなりました。

ようやく親衛隊の初期メンバーが決まりましたので、ご紹介に上がりました」


 見事に各種族から1人。


「ご主君の意向を考えて、最初は各種族から1人ずつとなりました」


「ええ、お見事です。

では、紹介をお願いします」


 狼人の若者が前に出た。


「ラミロ・リオです! 親衛隊に選ばれて光栄です! 身命を賭してお仕えします!」


 身命とか重たいって…。



 次に犬人の若者が前に出た。


「ミッキー・サージェントです! 親衛隊に選ばれて光栄です! 身命を賭してお仕えします!」


 ネズミの名前じゃないのか!

 やばい……名前のインパクト強すぎや。

 版権ゴロ軍曹……インパクト強すぎだろ。

 笑ってはいかん……笑っていかん……。


 平常心、平常心……。

 挨拶は定型なのね。


 最後に虎人の若者が前に出た。


「アレ・アホカイネンです! 親衛隊に選ばれて光栄です! 身命を賭してお仕えします!」


 お前ら俺を笑わせに来ているのか。

 平常心、平常心、平常心、平常心。


 何とか、平常心に戻った。


「ではこの3名と、ジュール卿含めての4人になるのですね」


「はい。

そのようになります」


「基本的な指揮はジュール卿ですね。

緊急時は私から、指示を出しても?」


「はい、結構で……」


「駄目よ!」「駄目ですわ!」


 げっ。

 ミルとキアラから、横やりが入った。

 2人で、ウンウンとうなずきあって言った。


「お兄さまは、ご自身の安全を軽視する悪癖があります」


「そうね、昨日のようなことをするくらいだしね……。

自分は大丈夫だから私たちを守れって言うわよ。

絶対に」


 困り果てたジュールが頭をかいている。


「で……では、私が基本的な指揮を執ります。

それ以外は自己判断に任せるとしますか」


 キアラは少し考えてからうなずいた。


「それでいいですわ。

ただ一つ、お兄さまの身を守るための親衛隊。

その意味さえ忘れなければよろしいです」


 うわ……俺の指揮権を取り上げられた。

 ミルも口出しをしてきた。


「私たちの危機が迫っても、アルの安全を最優先にして」


 それは駄目だ。

 そんな話は絶対に認められない。


「いや、それはさすがに駄目だろう」


 ジュールが困惑顔で頭をかき続ける。


「じきに増員しますので、その際に奥さまと妹君の護衛も任務とします。

それでよろしいですか?」


「分かりました、お任せします」


 ここはうなずくしかない。

 キアラは、きっぱりした態度で俺と親衛隊を見る。


「お兄さまは、諸事都合ありまして1週間ばかり外出できません。

ですから準備期間としては、ちょうどいいかと思いますわ」


 冗談じゃなかったのね……。

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