116話 不機嫌の理由

 当面は注視するしかない。


 だが監視ばかりするのもダメだ。

 疑われている、そう思われて疑惑を招く。

 そうすると本来は馴染もうとしている人たちまで、不穏分子に追いやってしまう。

 結局、問題が起こってから対処するしかない。


 では俺が獣人たちと積極的に交流して、平等をアピールするか。

 そうするとまた別種の問題で、新参者と旧来の住人の対立になる。


 どうしろと? 待つしかない。


 火事が起こってから消すしかない。

 実に不愉快だが、そうするしかない。


 その後で『問題が発生しないと、何もしない』といった陰口も甘んじて受け入れるしかない。

 だから、一気に受け入れたくなかったんだよぉぉぉぉぉぉ。


 というわけで表には出さないが、とても不機嫌です。

 ガラスでも割りたくなるよ。


                  ◆◇◆◇◆


 そんな中でも空気を読まない喪女シルヴァーナが、俺のところにやってきた。


「前に言っていたリタイア組だけどさ。

今呼んで良いの?」


「構いませんよ。

食料はその人たちがいる前提で計算しています」


「それだと有り難いんだけどね」


「何か不安がありますか?」


 喪女シルヴァーナが、いつになく真剣な目で俺を見た。


「ミルがね……アルが相当不機嫌だって言っているからさ。

悩みの種を増やしたら、マズいかなーと」


 隠し事できないのも良し悪しだな。


「ミルには今晩にでもちゃんとフォローしておきますよ。

技術を持った人は必要ですしね。

それと、数カ月後に狩りが始まります。

できるだけ早く準備したいのですよ」


 喪女シルヴァーナが、俺にビシっと指を突きつけて言った。


「わかった? ミルはアルに結構遠慮するんだからさ。

ちゃんと見てあげなよ」


「返す言葉もない。

遠慮は不要とは言っているんですけどね」


「アホか! 遠慮なしで済んだら破局するカップルの半分は減るわよ!」


 恋愛に関しては妙に気が回る。

 自分のこと以外は……。


「ええ、それも知ってます。

だから今後ミルに心配かけないように、ちゃんと話をしますよ」


「そうして頂戴。

で……何人くらいOKなんだっけ。

リタイア組の条件なら、結構集まるからさ」


「まずは20名程度頼めますか。

1人10名持てば、訓練対象が200人ですからね。

それだけでも大きいです」


「わかったわ。

家族がいたら、その分も足していいわよね」


「ええ」


 喪女シルヴァーナが、体をクネクネさせた。

 何か、変な話があるときだな……。


「あとさ、随分先の話になるんだけど」


「何ですか?」


「そういったリタイア組を、定期的に受け入れられるような仕組み作れないかな」


「ふむ」


「ほら冒険者やるような人って、故郷に居場所なかったりするからさ。

そんな人でも、最後にいける場所があるとうれしいかなと。

町にも役に立てるでしょ」


 驚いた、意外とマトモだった。


「シルヴァーナさんが管理担当してくれるなら良いですよ」


「うぐ……そ、そうね……。

あと5年たって、使徒さまに選ばれなかったらね。

アタシ、覚悟決めてここの市民になるわよ」


 ブレねぇな。


「そのときに、先生は41ですかぁ……」


 喪女シルヴァーナが、マジモンの殺気を飛ばしてきた。


「アル、死にたいかな?」


「イイエ」


「よろしい。

20人手配するわよ。

その人の1人に代表してもらえばいいんでしょ」


「ええ」


「じゃアタシのお師匠さんに頼むわ」


「わかりました」


 痴女で酒癖が悪くないことを祈ろう。

 いきなり喪女シルヴァーナが俺を睨んでいる。


「今めっちゃ失礼なこと考えてなかった?」


 喪女シルヴァーナの癖に、変に鋭い。


「気のせいです」


 喪女シルヴァーナが、勝手に紹介を始める。


「40近くのおじさまよ。

妻子持ちの」


 妻子持ち? 子供がいて環境が変わっていいのか?


「妻子持ちがこっちに来て良いのですか?」


「故郷でもやることないからね。

ここならいっぱいあるでしょ」


「奥さんと子供は?」


 喪女シルヴァーナが、ちょっと思い出す感じで言った。


「奥さんも余所者で元冒険者よ。

だからいろいろと肩身が狭いのよ。

だから喜んでくるわ。

子供もここは大勢いるしね。

それにアルは子供に優しいから安心よ」


「別にそんな優しくしていませんよ」


「はいはい。

手紙出して伝えたら、是非にと言っていたわ。

アルに会ってみたいんだって」


 嫌な予感がする…。


「変な名前をつけてないでしょうね」


「16歳だけと16歳じゃない。

エルフ好きの変人」


 おい。


「事実じゃん」


 俺、何か悪いことしたっけ…。

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