第94話 借金と敵はよく増える

 予想はある程度的中した。

 だが、外れた部分も大きい。


 エイブラハムを襲撃から守った。

 だが襲撃は、犬人だけではなく猫人そして有翼族と人間だった。

 猫人のテリトリー近くの山あいに住んでいる有翼族に、話を持ちかけたらしい。

 さらに有翼族の近くに住んでいる人間にも、同様に話を持って行ったようだ。

 人間は、別の領地から逃げてきた人たちだろう。


 このまま放置すると、次はお前たちだと脅したらしい。

 強力な虎人があっさり半壊させられたこと、森を一部だが平気で焼き払った。

 これが恐怖の原因らしい。


 ここで、火計が裏目に出たか。

 しかし一気に敵が増えたなぁ……。


 思わず頭をかく。

 ホント借金と敵は、よく増える。


「敵が一気に増えましたかぁ。

しかも対空戦術か……対空、対空、対空……」


 キアラとミルが、俺をあきれたように見ている。


「有翼族? そんな悩むようなこと?」


 ミルとキアラは、俺が悩んでいるのが分からないといった表情。


「お兄さま。

そもそも有翼族は、数が少ないから大きな脅威とはならないのが常識ですわ」


 俺はその疑問に答える気は、今のところなかった。

 あとでまとめて説明する羽目になるからだ。


 ことの重大さに気がついていない2人に対して、八つ当たりような苛立ちを感じてしまっていた。

 2人には、なんの責任もない。


 もう少し冷静になってから、説明をしたい。

 今しゃべると、2人を傷つける気がしていた。

 だからこそ違う話をすることにしよう。


「有翼族の戦い方って、誰に聞けばいいですかね」


 ミルは俺を見て、肩をすくめた。

 ミルの交友関係は狭いからな。


「うーん……さすがにヴァーナかな……プロだし」


 キアラはミルの話にうなずいた。


「あとはロッシさんに聞けばいいかと思いますわ。

襲撃も簡単に撃退できたのですし」


 俺は、黙ってうなずいた。

 空を飛ぶことのアドバンテージを生かし切れていない? 何にせよ、情報だ。

 さらに護衛の増員が必要になる。


 ある程度なら犬人も自衛はできる。

 だが女性と子供を伴い荷物をもって移動しているのだ。

 戦力としての計上は、無理がある。


 補給部隊に戦闘をさせるようなものだ。

 それだけで大丈夫と考えるなら、ただの馬鹿だろう。

 甘く見ると、有翼人に手ひどくやられる。

 人間の人数も問題だ。

 あとは猫人か……一気に計算要素が増えてきた。

 自覚できるほど苛立ちっている。

 こんな場合だからこそ冷静に考えないといけない。


 猫人は、条約を締結したわけではない。

 つまり、徹底的にはやられない。

 そこまで見越しての行動だろう。

 実に食えない連中だ。

 ファンタジー物では猫人はお馬鹿だったりセクシーキャラだったり、単純なイメージがある。

 ここの世界ではずる賢いらしい。


「2人を呼んできてください」


 大規模作戦は、無理がある。

 まだ、虎人との戦闘ダメージが回復しきっていない。

 そして狼人たちには、これ以上死者を出してほしくはない。

 俺の頭の中では前回の死者で、人口比率がレッドゾーンに突入している。

 人道的ではなく種族の構成バランスで、成人男性が多く欠けるのは統治上良くない。

 それに加えて、父親を亡くした子供を増やしたくはない。


 地図模型で関わったりしているうちに、情が移ってしまったか……。

 遊ぶことより働いて、社会に貢献しようとしている子供たちを不幸にする。

 そんなことは俺自身許容できそうにない。


 犠牲0は絵空事だ。

 親を失った子供たちに恨まれるか、泣かせてしまったらだ。

 せめて、俺自身に対しての言い訳は用意しておきたい。


 自嘲的な笑いが出てしまった。

 やっぱり俺は、どこまで行ってもエゴイストだな。

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