第91話 行列とアフタヌーンティーと根回し

 今日はキアラと町に視察に出ることになった。


「お兄さま。

視察ではなく、デートと言ってください」


 いやいや、視察だから。

 やぶ蛇になりそうだから、話を変える。


「キアラ、町の住人の様子とか見てどうですかね。

何か気になったこととかあります?」


 俺の話題逸らしに一瞬ふくれっ面になった。

 すぐに思い返したのか、思案顔になる。


「うーん、そうですわね。

列の割り込みとかたまに見ると……教育したくなりますわね」


 キアラの口から出る教育という単語は、不穏な気配しかしない。


「まだ、法律とか常識とか決まってないですからね」


「そろそろ決めた方がいいかもしれませんね。

あと、お酒ばっかり流行っているせいか……お茶の種類が少ないですわね」


 キアラは転生前の世界のイギリス人に似たところあるのだ。

 お茶好きなところや行列をきっちりしたがるとか、いろいろ似ている。


 アフタヌーンティーにたいしてのこだわりが非常に強い。

 俺も何度か付き合わされたが、お茶の種類を話されてもチンプンカンプンだった。


 相手追い詰めるときは、外交的に外堀を埋めてから実行するとか。

 日本人とは、ちょっと違う感じだ。


「そういえば……男のロマンとは、一体何のことですの?」


 ちょっと馬鹿にされると切ない。

 だが、誤魔化すような話でもない。


「小さな箱庭みたいなものを作っているのですよ。

子供たちの娯楽と教育も兼ねてですね」


 キアラは俺の弱い口調に合点がいかない……といった感じで首をかしげる。


「それはすばらしい話ではないのですか?

お兄さまは何故か後ろめたそうにしているので、気になったのですわ」


「粘土を使うので、泥で汚れます。

キアラはいかなくても……」


「案内してくださいね」


 遮られてしまった。

 駄目だ……抵抗しても、無駄なパターンや。


「分かりました……」


 渋々、ロマンの館につれていった。

 中には子供たちがせっせと、泥遊び……ならぬ模型作りにいそしんでいる。


「「領主さま、キアラさまこんにちはー」」


 子供たちは、元気に挨拶してくれる。

 20人くらいが、興味をもって残ってくれていた。

 まだ始まったばかりだが……試行錯誤しながら作っている。

 キアラは作りかけの模型を興味深そうに眺める。


「これは何を作っているのです?」


 ボス格の少女が言った。


「地図を粘土で作っていますー!」


 元気な返事にキアラは目を細めた。


「へぇ……お兄さまに頼まれたのですね」


「はい! 将来役にたつって!」


 キアラは少女に優しくほほ笑んだ。


「では私も、たまに見に来ますわね。

そのときは、お菓子を差し入れしますわ」


 子供たちから歓声。

 ここにも根回しを始めたぞ……。

 これ絶対定期的に差し入れして、影響力確保するぞ。


 将来を思って頭をかいていると、別の子供が俺の服の袖をつかんだ。


「領主さま。

海とか森って、どうやって作ればいいの?

水は井戸からくんでも乾いてなくなっちゃうし……」


 そうだな……確かに。

 おもむろに俺は、目線を子供の高さに合わせた


「水色の粘土で海かな。

森は緑色の紙くずとかで、それっぽく見えればいいです」


 水色の塗料を探さないといけないか。

 俺の言葉を聞いてキアラが、ちょっと思案顔になる。


「染料は私が手配いたしますわ。

木は木片の余りで作ればよろしいのでは?」


「ああ、そうですね。

助かりますよ」


 キアラは何故か胸を張る。


「いえいえ、お兄さま肝いりの事業ですわ。

お手伝いするのは当然ですの」


 事業ってオーバーだな…。

 余り話が大きくならないように説明する必要があるな。

 あくまで娯楽の一つだよ。


「遊びの一環ですよ。

町とか港をどんな位置に造ればいいか。

地理的感覚を養ってもらえればいいかなと。

将来の仕事につながる可能性もあります」


 キアラが、目をキラキラさせる。


「さすがお兄さま、将来を見ているのですね。

でも……これに興味がない子供たちのことも考えないといけないですわね」


「そうなんですよね。

今度、子供たちをあつめて聞いてみようとは思っているのですけどね」


 少し考えてから、キアラは俺にウインクをした。


「それならお菓子を出してあげて、話を聞くのがいいですわよ」


 俺よりそのあたりの機微に詳しいな。


「いっそキアラに丸投げした方がいいのですかね」


「駄目ですわ。

お兄さまが一緒でないと、私は頑張る気がおきませんの」


 キアラはプイと顔を背ける。

 さいでっか……。

 そこに1人の子供がキアラの前にやって来た。


「キアラさまは何をして遊んでいたのー?」


 キアラがその子供に優しくほほ笑んだ。


「お兄さまとお話をしたり、本を読んでもらっていましたわ」


 それで終われば良い話だった。

 独り言のような囁きが続いており、嫌でも俺の耳に入ってくる。


「兄と妹の真実の愛を広めれば、タブーでなくなるのかしら。

子供たちから広めれば……いけるかも?」


 滅茶苦茶真顔だった。

 おいおい……危険すぎたろう。

 ここを近親相姦の聖地にする気はないからな。

 

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