第89話 お風呂をみんなが好きとは限らない
防疫関係で、トイレと下水処理の設置と建築は順調に進んでいる。
以前民生部として設立していた部署を省にした。
寄生虫の対策として、古い文献を取り寄せそれを元に対策を講じるように指示もしてある。
トップが貧民だったから、文字が読めないので文字を勉強しながらだが……。
やはり社会、居場所がなかった人が、社会に役に立つと思うと心も変わる。
以前はオドオドして卑屈だったが、今は態度に自信も出てきている。
大変結構なことだ。
読み書きの教師を、
「土木工事と教師どちらがいいですか?」
その選択で、教師を選んだからである。
何気に、面倒見が良いから適任だろう。
それとは別に、医療も統括する部署も新設しないといけないな。
ほんと、やること山積み。
◆◇◆◇◆
まだ小規模ながら、公衆浴場ができ上がった。
だがちょっとした問題が発生した。
狼人が、風呂を好まなかった。
それでは困るのだが……。
理由を聞いてみた。
濡れると重い。
乾くまでが不快。
濡れた状態は、格好悪い。
泳げる広さがない。
最後だけ……何か違うだろ。
そういえば、犬も風呂とか嫌うのがいたな。
防疫のメリットを説こうとしても、今まで平気だったとの回答。
いや、村で小さいから平気だったのよ。
都市で人が多くなったら、それは通じないのよ。
しかも毛にシラミとかたまって、伝染病が流行したら危険すぎる。
一応、理として説明はしたのだが理解されるのはなかなか難しい。
そこで、無理強いをしても仕方ないので、別の手段を講じる。
サウナで汗をかいて、ぬるいお湯で汗を流す。
そして犬が、体を振って水を飛ばす動作があったのを思い出した。
そこで他人にかからないような敷居を設置。
そして温風で乾かせる場所も作る。
見事好評だった。
さらに、温風で乾かせる場所を広間にする。
そして他人との交流ができる場所にする。
人も、サウナに通うからな。
サウナの建物の中に、飲食を可能にして社交の場にする。
温泉施設に飲食店があるようなものだ。
交流の場を広げて、種族間の断絶を避けたい。
これで、ようやく軌道に乗った。
そして、俺も公衆浴場にいこうとすると……まずジュールに反対された。
「駄目です。
何かあってからでは困ります。
風呂の湯気で、剣がさびます。
余分に予算がかかります」
女2人まで反対する。
「お兄さま、屋敷のお風呂で良いではありませんか」
「ええ、わざわざ別のお風呂にいかなくても良いでしょ」
「いや、市民たちと触れ合うのも大事かなと」
キアラが頰を膨らませる。
「触れ合いなら普段からしているではありませんか」
「いや、しかしな」
キアラがプイと横を向いた。
「私が見たことのない成長されたお兄さまの体を、他人に見られるのは我慢がなりません」
おい。
「お姉さまだけなら、ギリギリ我慢できます」
そのぶっ飛び理論やめろ!
「週に7日、私と一緒にお風呂に入っていただけるなら認めますわ」
毎日じゃねぇか。
しかも、絶対入るだけで済ませる気ないだろ?
ミルまで反対する。
「ちょっと駄目よ! 私だってまだ一緒に入ったことないんだから!」
いや、反論のポイントが違うだろ?
かくして公衆浴場プランは、闇に葬られた。
ミルがため息をついた。
「キアラはああ言ってるけどね。
私がアルと2人でお風呂に入ったら……暴走しかねないから我慢しているのよ」
「おおぅ…」
ちょっと、最近、ヤンデレのレベルがあがってねぇか?
何か考えないといけないか…。
一度キアラとサシで話さないと駄目だな。
かわいい妹で大好きだ。
あくまで妹だ。
異性としては絶対見ることができない。
転生前の記憶と慣習が、俺になじんでいて絶対無理。
キアラは俺が絡むと、倫理とか一気に消え去るからな…。
ミルと仲良くしてくれているのが救いだが…。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます