第87話 特殊過ぎると種族扱いされる

 部屋に戻って、2人きりになるとミルが申し訳なさそうに謝ってくる。


「アル、ごめんね……。

結局、最後の決断をアルにさせちゃって」


「いや、今回はここまでで十分だよ。

謝らなくていいし、よく頑張ってくれたよ。

本当に有り難う」


「アル……」


 ちょっと、ウルっとしているようだ。

 クサ過ぎたか? 言っていて恥ずかしくなってきた。


「えーっとな、俺とミルの子供が生まれたとする」


 ミルが赤面して硬直する。


「こ、子供?」


「その子供が立とうとする。

何でもかんでも手を出すかい?」


 将来を想像してか、ミルがモジモジしている。


「い、いえ。

見守るわね」


 相変わらず可愛らし過ぎる。


「今回の話も、それと同じ。

全く手を出さないと……見捨てられたと思うかもしれないだろ」


「徐々に立つまで、ときには手助けして見守るってことなのね」


「そう」


「良いパパになれるわよ」


「どうだろう、そうなるつもりだけどね。

どんな性格の子供になるかわからないしね」


「アルと私の子供かぁ。

まさか……いきなりしゃべりだして、アルと議論なんてしない……よね」


「ミルは俺を、何だと思っているんだ……」


「うーーん、アル人?」


 おい……種族にまでなってきたぞ。

 ミルは悪戯っぽい笑顔だった。


「冗談よ」


 冗談に聞こえないぞ。


「それで……猫人にお土産を送る理由は、私にだけは教えてくれる?」


 キアラを真似て上目遣いのお願いスキルを上達させている…。

 一応正解は出したけど、理由は皆で考えてねと言って解散したのだ。


「奥さんのお願いは断れないな」


 ついつい、聞いてしまう。


「一番効果があるのはわかるよな」


「ええ」


「そもそも今回の話は、虎人が猫人に唆されて狼人が迫害されたのが発端だ」


「そうね」


「それを前提として、虎人にお土産贈って何か変わるかな?」


 ミルが、少し考える。


「埋葬して終わりかな……」


「そうだね、もしくは単に降伏勧告としてしか考えない。

彼らの慣習からしてね」


「効果はないの?」


「猫さんに贈るよりはね」


「犬人には?」


「虎人に回送して終わり」


 ミルが正解の理由をつかみかねているようだ。


「猫人には?」


「虎人を猫人が操っている、多分それは誰も知らない。

でも虎人に猫人が付き従っていることは、周知の事実だよ」


「それでも回送して終わりじゃない?」


 俺は、悪戯っぽく笑う。


「そこでお土産を送った人とそうでない人に、同じお手紙を出すのさ」


「どんな手紙?」


「猫人がたくらんだ事実を、そのまま教える。

加えてわれわれに合流すれば、過去の諍いはなかったことにする。

合流するなら市民として迎える。

虎人の大将の首は、黒幕である猫人に贈ってあるとも付け加える」


 ミルが、まだすっきりしない顔をしている。


「お土産がどう影響するの?」


「虎人に回送しても、仲良くはならない。

会ったときに罵倒される。

こっそり置いていっても、卑怯者として嫌われる。

でも猫人からしても持っていても、始末に困るし虎人の一部から恨まれる。

猫人内部でも口論が始まりかねない。

揚げ句、猫人は虎人と犬人が共同して自分たちを攻撃するのではと恐れる」


 ミルがあきれた調子でつぶやいた。


「手が込んでいるわね…」


 俺は、悪い笑いを浮かべた。


「結果的に3種族が合力して、俺たちに歯向かうことは絶対ない。

虎人は猫人に唆されたと思う。

そして自種族の生存で手一杯。

犬人は巻き込まれたと思う。

猫人は一人の裏切り者と唆された虎人が原因だと思う。

内部でも意見の統一は困難。

そして自分が、一番先に降伏して優位に立とうとするか考えるようになる」


 俺の笑いは、ますます悪役っぽくなる。


「他が降伏して、合同で俺たちに攻撃されたらたまらない。

つまりの単独では存続できない。

でも2種族合同では足りない。

鍵となる虎人がかなりの数減ったからね。

3種族合同は不信感で無理。

更に殺すとか奴隷にするなら戦うけど、同じ市民として迎える。

それで必死に戦う気にならないだろ」


 ミルの頭に、豆電球がついたようだ。


「ああ! それで何もしない選択肢をわざわざ言ったのね!」


「奥さん正解です」


「ほんと、アル人ってすごいわ……」


 いやだから、種族じゃないって。

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