第86話 お土産は嬉しいものとは限らない

 ついつい、2人には思っていることを話してしまった。

 どうにも、この2人には隠し事はできない。

 だが、別に不快ではない。

 これが理解した上で、人を利用するとか馬鹿にするとかだ……と違うのだがな。


 あえて言えばくすぐったい……とでも言ったところか。

 違うことを考えていたのは、理由がある。


 前日の続きをしている、おおむね満足。

 常に、議論を注視する必要がなかったためだ。


 ただ、最終的な決断をする段階でみんな尻込みして遠慮じみたものがでてきた。


 議論の結果、2種類の方針がでてきた。

 一つは今攻撃するのは不確定要素が多いので、もう少し様子を見て判断する。

 もう一つは、虎人、犬人、猫人に対して合流を求めて反応を見てみる。


 すぐに直接的な攻撃は取らなかった。

 一番、被害が少ないとは言い切れないためだ。

 俺が、無駄な犠牲を嫌うのを知っている。


 議論を任せて、責任は俺が取ると明言した。

 そのため、俺の意向と相反することは決めにくくなっている

 この大方針だけは維持してほしいと思っている。


 犠牲を安易に許容するようになると、安直で派手な成果に飛びつきやすくなる。

 その結果、社会的な弱者と良識的な人たちが割を食うからだ


 平時に声が大きくて勇ましいことばかり言う人は、いざ危機が迫るとどこかに隠れてしまう。

 勝利を! 栄光を! と叫ぶ人が危険に身をさらすなんてめったにない。

 今まで黙っていた人が、自分の家族や仲間を守るために、犠牲になる。

 弱者があらがえずに、犠牲にされる。

 危機が去ると、声の大きかった人がどこかからかまたでてくる。

 そして犠牲者の功績を横取りする。


 そんな世界を作りたくて苦労しているわけじゃない。


 今までの世界は、犠牲を軽く見すぎていた。

 無駄な犠牲を嫌う、この意図を浸透させる。


 だが、犠牲を一人も許容できないことになるのは違う。

 犠牲を軽く見ることが単に裏返っただけで、本質は何も変わらない。


 平和を、共存を話せば分かると叫んで足を引っ張る人がでてくる。

 危機が迫ると、どこかに雲隠れか真っ先に逃げ出す。

 幸運にも危機が去ると……また、同じことを繰り返す。

 それか、皆を守るために戦った人を責め立てる。

 あまつさえ自分が足を引っ張ったことを、棚に上げて対応の遅れを非難する。


 結局のところバランスなのだろうな。

 

 など、自分の思考の中に没頭していると……俺を呼んでいる声がした。


 キアラだった。


「お兄さま、何を考えているのですか」


「いえ、議論の行方は全く問題がなかったのですよ。

それでつい……」


 先生がエロ親父の表情になった。


「夜の生活でも考えていたんじゃないだろうな?」


 俺とミル、キアラ以外爆笑。

 ミル赤面。

 キアラは愛想笑い。

 だが目は笑ってない。


「そんな卑近の話ではないですよ。

私は先生のように……女性に飢えていません。

だから必死に考えなくても良いのです」


 今度は、先生以外爆笑。


 チャールズが、後は決めてくれ的な表情をしている。


「ではご主君。

われわれでほぼ議論については出尽くしました。

後は決断のみなのです」


「合流を求めるのがいいでしょうね。

ただ……お土産は必要でしょうね」


 先生が、不可思議といった顔をした。


「こっちの方が立場は上なのに、何か持っていくのか?」


 悪戯っぽく俺が笑う。


「ただそのお土産は、一つしかないので……誰に渡すかが問題なんですがね」


 正解は決めているが、できれば考えてほしい。

 外れてもいいから、まず考えること。

 これ大事。

 一歩でも進まなければ、目的地に着くことはない。

 目的地から来てくれるなんてないだろ。

 

 チャールズが興味をそそられたのか、身を乗り出してきた。


「一つしかないお土産ですか。

一体何ですかね」


「ええ、ある意味嫌がらせのようなお土産ですけどね」


 ルードヴィゴが遠い目をしてつぶやいた。


「ああ……アルフレードさまからキアラさまへの手紙を取り次いでいた兄マリオがのことを、そう言っていましたなぁ……。

命に関わるお土産の取り次ぎはつらいと……」


 キアラがほほ笑む。


「あら、それは興味深いお話ですわね。

マリオともが必要でしょうね」


 しまったという感じのルードヴィゴ。


「ま、まあ……マリオのことは放置しておきましょう。

答えは先の戦いで打ち取った大将首ですよ」


 俺の意図を察した先生があきれたようにつぶやいた。


「坊主……性格悪すぎだろ」

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