第82話 閑話 顧問の肩書

 気が付いたら、泥沼に引き込まれていた。

 俺ファビオ・ヴィスコンティは、教え子に巻き込まれた。

 領地開発の顧問という名の便利屋をさせられている。


 つまり……だ、面倒だったり困ったりするところに投入される。



 だが顧問の本当の意味を知ったのは、虎人との戦闘が終わった後のことだった。

 手紙の管理する若者が手紙を持ってきた。


「ヴィスコンティ博士、お手紙です。」


 俺は無言で手紙を受け取る。


 しかし……底が知れない坊主だ。

 全体図が見えているように、誰も作ったことがない行政機関を作り上げている。


 底が知れない存在と言えば、使徒がいる。

 使徒学で今までの使徒の、言動や実績は知っている。

 

 それは大体、派手な業績ばかり。

 強大な力をもった子供が、無邪気に世界をいじりまわしている。

 後のことは考えているのだろうが。

 子供が考える後のことは、ほぼ都合のいい前提での想定に限られる。

 見たくない現実を想定して、手堅く布石を打つ。

 そんなものは、一つもなかった


 あの坊主の知識から使徒でないか……とも思っている。

 だが、使徒以上のことをたくらんでいる。

 使徒であって使徒に収まらない坊主。

 興味が湧いたので、黙って見ていることにする。


 そんな俺の思惑などあの坊主はお構いなしだ。

 本当に、便利屋としてコキ使われている。

 魔法にしても、土木工事に使うなど使徒以外したことがなかった。

 使徒がやれば、一瞬で終わる。

 俺たち凡人がやれば、時間がかかる。

 試行錯誤して、手順の改良を強いられる。

 むしろ、それが狙いのような気がする。


 使徒の力を使わない使徒。

 実に面白い、こんな見せ物はめったにない。

 とことん、凡人に試行錯誤させる。

 坊主はとっぴなことを言い出すが、振り返ればそこまですごい話でもない。

 俺たちでもできる。

 ただ発想が、そこに至っていないだけ。

 一度見ればなぞることは可能だ。


 などと考えつつ、あの坊主に心底恐怖を覚えたのは手紙を見てからだ。

 手紙は教会からだ。


 開発地の現状の報告を求めている。

 なぜ、報告を求めてきたか。

 教会にそんな権利があるのか。

 俺が教会公認の使徒学博士で、領主の顧問だからだ。

 つまりラヴェンナ自体が、間接的に教会の公認みたいな形になっている。

 自主的にだ。


 教会と断絶していれば、視察と称して人を送り込んでくる。

 下手をしたら、妨害されたり要らない口出しをされたりする。

 だが、俺が顧問となっている。

 俺を通じて、情報を得るにとどまる。


 教会は巨大な官僚組織。

 職域の侵害は、できるだけ避ける。

 よほど変な報告をしなければ、そのまま放置だ。

 そして俺が、適当に無難な報告をすることを見込んでいる。


 何せ、教会とそりが合わない。

 食うために、博士をしていることをヤツは知っている。

 そんな俺が、教会の力をここに入れたがるわけはない。


 後で教会が人を送り込むにしても

 組織が、ほぼでき上がっている段階になってからだろう。


 坊主のすることは、常識から外れている

 初期段階で教会の横やりは避けたいだろう。

 

 16歳の餓鬼の発想じゃない。

 今までの使徒の発想でもない。

 恐怖もあるが、楽しみもある。

 俺の考えなんて、百も承知だろう。


 さらに不気味なことがある。

 みんなにいじられても、不快な態度を示したりせず基本なすがまま。


 冷静に考えたら、坊主は不気味で近寄りたくない。

 それをカムフラージュしているのか本心なのか判断はつかないが、自分の権威には無頓着なようだ。


 今までの使徒は、権威は要らないとか馬鹿にしているが

 その実みんなに尊敬されたがっている。

 構って欲しがる子供のようなものだった。


 160歳と言われるのも、あながち的外れではないな。

 どちらかと言えば、人類に火をもたらして神から罰を受けた天使の生まれ変わり。

 そんな存在かもしれん。

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