第74話 コネも都合が悪い時がある

 言霊信仰って御存じでしょうか。

 口にすると、それが現実になる。

 俺の場合は、効果不明の使徒補正がある。

 深層心理で思うだけで実現するかもしれない。


 でもさ、イラネと思ったことが実現するってどうよ。

 嫌がらせだろ。

 レ・ミゼラブル。


 なぜこんな、アホなこと考えているかってさ……アレが来たのだよ。


 喪女シルヴァーナだ。


「アル~。

アタシに会えたからって、そんなに感動に打ち震えなくても良いわよぉ~」


 なぜ来たのかって話なのだが……領地開発の情報は、当然冒険者ギルドにも伝わっている。

 そこなら冒険者の仕事もあるのではないかと。

 支部を作るなら、早めに手をつけた方が良いだろう。

 そんな話が、冒険者ギルドの首脳陣の間で出たそうだ。


 いきなり支部を作ろうと押しかけた結果、追い払われても困る。

 そこで適任者を調べたら、喪女シルヴァーナがヒットした。

 デッラ・スカラ家と縁のある冒険者を募集したところ、暇していた喪女シルヴァーナが立候補したわけだ。

 コネ社会なので、やはり縁者や知り合いがまず優先起用される。

 それで俺との折衝のために、喪女シルヴァーナが派遣されたわけだ。


 ギルドの紹介状片手に、俺の実家に行くと兄2人と面会できた。


「「ぜひ、アルフレードに会いに行ってくれたまえ! アルフレードも喜ぶだろう!」」


 そしてノリノリで勧められたわけだ。

 どうしてノリノリなのだ?


 ドワーフ第2陣と一緒にやってきたおかげで、脱魂状態のままドワーフたちとの挨拶をしたから名前を忘れたよ。

 そんな俺をよそにミルが駆け寄ってきて喪女シルヴァーナとハグし合う。


「あ、ヴァーナ! 久しぶり!」


「ミルひさしー! アルとの仲は進展したの~?」


 ミルは少し照れくさそうに笑った。


「今は一緒の部屋に住んでいるわよ。

勿論ベッドも一緒よ」


「げふぅ…」


 変な擬音が聞こえた。

 喪女シルヴァーナが、目を泳がせている。


「何で順調に、仲が進展しているかなぁ……。

ミルは、もうすぐ領主婦人?」


 俺はちょっと喪女シルヴァーナをいじめたくなった。


「ええ……落ち着いたら、正式に結婚します。

なので、結婚式には招待しますよ。

でもシルヴァーナさんは、きっと……ブーケを取れないと思うでしょうが」


 使徒が持ち込んだ風習で、結婚式でのブーケトスが広まっているのだ。


「ちょっと、アル! アンタ性格悪くなってない!?」


「気のせいですよ」


 ミルが意地悪な感じで笑った。


「ちょっと、アル。

ヴァーナをいじめないでよ。

そこは触れないであげて」


 地面に崩れ落ちた喪女シルヴァーナが、絶望の表情をする。


「2人そろって、性格が悪くなっているわよ…。

あのピュアだった2人はもういないのね…」


 言った直後に、喪女シルヴァーナが立ち直る。

 忙しいヤツだ。


「そいや流刑童貞も流されてきているんでしょ」


「ええ、今は別の仕事でキリキリ舞いしていますが。

あとで会えますよ」


 喪女シルヴァーナが、キアラを興味深々で見ていた。


「いや、別にどうでもいいわよ。

それよりそこにいる美少女さんは、だぁれ?」


「初めまして、お兄さまの妹。

キアラ・デッラ・スカラです」


 喪女シルヴァーナが感心したようにキアラをジロジロ見ている。


「初めまして、アルの友達、シルヴァーナ・キティよ。

こんな美少女さんが、妹なんてねぇ」


 キアラもジロジロと、値踏みするように喪女シルヴァーナを見る。


「失礼ですが、シルヴァーナさまは……お兄さまファンクラブの一員なのですか?」


 喪女シルヴァーナは予想外の質問に怯む。


「い、いや……ただの友達よ? 確かに、アルは素敵な男性だけどさ」


 キアラが問い詰めるような目で、喪女シルヴァーナを見た。

 喪女シルヴァーナが一歩あとずさる。


「そうでしょう、そうでしょう。

お兄さまは比類なき素敵な男性です。

そのお兄さまと友達止まり良いとは? ただのリップサービスですか? 密かに狙っているのですか?」


 何か面倒臭いことになってきたぞ。


「ああ……シルヴァーナさんは、心に決めた人がいるのですよ」


 キアラは喪女シルヴァーナから、興味を失ったようにほほ笑んで俺を見た。


「まあ……それでしたら納得ですわ」


 ほっとした顔の喪女シルヴァーナ

 

(アンタの妹って面倒臭いのね)


 多分、そう思っているだろう。

 顔に出ているし。

 立ち話のままもアレなので、執務室に案内する。


                  ◆◇◆◇◆


「それでシルヴァーナさんは、遊びで来たわけではないのでしょう」


 喪女シルヴァーナがウインクする。

 全然、色気がない。


「そうそう冒険者ギルドで、ここに支部を作りたいって話。

ヨロシク」


「支部は構いませんが、インフラの構築とかまだなので……もう少しあとでお願いします」


「ん、分かった。

手紙で報告するわ」


 喪女シルヴァーナがあっさり承諾。

 いいのか? 無理強いしても駄目と考えたのか。


「戻って報告しないのですか?」


「作って良くなったか、ここにいないと分からないでしょ」


 むぐ……確かに理屈は通っている。


「あと、ここだけの話でさぁ。

最近あんまり仕事なくてね……だから、ここでしばらく雇ってよ」


 なるほど理解できた。

 ミルが助け船を出す。


「アル、良いと思うわよ? 魔法使いなら役に立つでしょ」


 せっかく再会した友人と別れたくないのもあるのだろう。

 3人で食事をしたときも、少しさみしがっていたからな。

 働くと言っているなら、ミルの気持ちをくんでも良いだろう。


「構いませんが……酒は、まだ少ないですよ」


「む、むぐ…だが…食べられなければ始まらない。

良いわ。

何を手伝えばいいの?」


「先生の手伝いかな」


 喪女シルヴァーナが、心底嫌そうな顔をする。


「うげ」


「嫌なら、仕事はないのですが…」


「わ、分かったわよぅ……。

それでどんな仕事なの?」


「今、鉱山と、近くの町の開発をしています。

だから、いろいろとありますよ。

主な業務は魔法で砕岩、丘陵を掘削とかですね」


 喪女シルヴァーナが心底詰まらないって顔をしている。


「土木工事……地味ねぇ。

何か敵をぶっ倒すような話はない?」


「じきにありますよ」


 そしてその夜は、先生を交えて狂乱の宴になった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る