第71話 魔法の維持には集中が必要
屋敷に戻るまで全員無言だった。
チラチラとミルが心配そうに、こっちを見ていたが敢えて答えないことにした。
もっと、周りを心配させないような言い方があったのではないだろうか。
自問自答して、良い答えが見つからなかったからだ。
執務室に戻ったが、微妙な雰囲気をキアラも察知して無言だった。
代表者会議もちょっと微妙な雰囲気だった。
だが空気を読まない先生が朗らかに笑った。
「おっ夫婦喧嘩か?」
そんなうかつな発言をした結果……ミルに締め上げられたのは言うまでもない。
◆◇◆◇◆
会議の後、部屋にキアラまで付いてきて3人で向き合うことになった。
無言でミルが、音声を遮断する魔法をかけた。
キアラは不思議そうな顔をしていた。
「一体何があったのですか?」
正直答えにくい話だ。
「いや、特にはないぞ」
ミルは少し下を見ていた。
「あーいや、実はね……」
ミルがアローンの所を辞してからの話をした。
キアラが難しそうなことを考えていた。
「お姉さまは何か心配事があるのですよね」
「ええ……あんな、怖い感じのアル見たことなかったから……ね」
キアラは真面目な顔でうなずいた。
「確かに、いつも穏やかですからね」
そうだっけ? 穏やかだと思ってないのだけど。
「そうなのか?」
「そうよ。
あそこまで冷たい感じのアルは、初めて見たわよ」
しばしの沈黙の後、キアラがミルに少し自慢気な顔を向ける。
なぜ自慢気なのだ?
「私は数回見たことがありますわ」
「そうなの?」
「お兄さまが自分自身に立腹したときは、そんな感じになります」
そんな態度にすぐ出ていたかなぁ。
俺の疑問と裏腹にミルはものすごく納得したような顔をしている。
「ああ…」
キアラの自慢気な顔がさらに深くなる。
なにか遠くから雷鳴が響いた気がする。
「そんなときは、人が変わったような冷たい感じになりますの」
ちょっと、俺分析されすぎ!
キアラは教師のような態度で人さし指を立てた。
「多分……お姉さまを心配させたことに対して、御自身に立腹しているのですわ。
もっと良い言い方がなかったかなと」
何で、そこまで分かりますかね。
ちょっと怖いよ…我が妹よ。
なぜか複雑な表情のミル。
「そうなんだ。
知らなかったわ……」
ドヤ顔のキアラ。
幻聴のはずの雷鳴が大きくなった気がする。
「お姉さま。
私にはお兄さまを観察してきた年数の優位があるのですわ」
そしてミルは悔しそうな顔をしている。
頼むから、ここで泥仕合は止めてくれよ。
幻聴のはずが、たった今……雷光まで走った気がする。
外は晴天のはずだよな。
「それ……ズルくない?」
ミルの顔がマジになってる。
あ、始まった…。
俺はここにいる必要ある?
俺の危惧を知ってから知らずか……フンスと胸を張るキアラ。
「いえ。
そのうち……お姉さまにも分かりますわ」
頼むから、火に油を注ぐなよ…キアラ。
ミルってああ見て、すごく負けず嫌いなんだよ。
ミルはマジな顔から一転、勝ち誇った顔になる。
「くっ……だけどね……キアラ。
あなた……アルの全身のほくろの場所は知っている?」
あ……オワタ……核ミサイル発射ボタンのスイッチを押しやがった……。
キアラの顔がマジになった。
こめかみがピクピクとけいれんしている。
そこまで興奮したキアラは初めて見た……。
「そ……そ……それこそ卑劣ですわ!」
ミルがフンスと胸を張り返した。
幻覚のはずだが、落雷と火災が発生したような気がする。
気のせいか暑いな…。
「キアラの分もちゃぁぁぁんとアルのことを知ってあげる。
だから安心して私だけに任せてくれれば良いのよ」
どこからともなく、ゴングの音が鳴った気がした。
俺の脳内で勝手に『白い~マットの~ジャングルに~』と歌が流れ始めた。
選曲違うだろ俺!!!
「そんなのは不公平ですわ! この泥棒猫!」
「ちょっと! 兄妹でそこまでこだわるのは普通じゃないわよ!」
「愛の形でお姉さまに、どうこう言われる必要ありませんわ!」
「あ……あの2人とも仲良く……」
「「黙ってて!!!!!」」
そこだけは、仲良くハモったのね。
「ハイ……」
言い合いがヒートアップしていく。
そしてだな……魔法の維持には、集中が必要なのだ。
うん……どういうことかって?
喧嘩の声がダダ漏れってことだよ!!!!!
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