第68話 単位とはなにか
アーロンが仰天しつつ慌てた。
「ど、ど、ど、どうか頭をお上げください」
ミルも慌てて言い出す。
「ア、アル! アーロンさんの心臓を止める気?」
そんな気はないのだが……。
「では、お話をお聞かせ願えますか?」
「何からお話しすれば良いのですかな?」
やはりそう簡単にはいかないか…。
常識を打ち破るのは、俺の頭一つでは無理か。
使徒さまとやらだったら、簡単に済むのだがなぁ…。
いかんいかん。
「そうですね……何時頃から、皆さんはこちらに住み始めたのですか?」
「50年ほど前ですな」
「では、そこからお聞かせください」
俺の意図が分からないままだが、観念したのかアーロンが語り始めた。
最初にここに流れ着いて、森の奥に集落を作った。
そこで最初に接触したのが猫人だった。
話を聞くと、10年ほど前にここに流れ着いたらしい。
流れ者同士、協力してやっていこうとなった。
そんな中、犬人とも接触があり
こちらとも協力しようとの話になった。
犬人も、ここに流れ着いて間もない新参者。
多少の諍いは当然あったが、抗争にまでは至らなかった。
それも10年ほど後に、山の向こうから虎人族が来てからこのバランスが崩れてしまった。
「山の向こうですか? あの山って越えられるものなのですか?」
ラヴェンナを世界から断絶している、でかい山脈がある。
「われわれも越えられないと思っていたのですが……超えてきたのです」
別のルートがあるのか。
それほど追い詰められたのか…。
「なぜ越山したのかは分からないのですよね」
「はい。
虎人と対話は、ほとんどできていません。
必要以外のことは話しません。
それに彼らは自分たちの過去を語りたがりません」
話を聞かないタイプか、無口なのか。
せめて虎人にも穏健派がいればいいのだが、山越えをするくらいだからな。
アテにはならないか。
山越えして逃げてまで戦いたくないと思うか。
もう行き場はないから、戦うしかないと思うか。
混合か現時点では分からない。
「話の腰を折って済みません。
続きをお願いします」
アローンは俺の言葉に、ゆっくり首を振った。
「そろそろ昼時ですな。
よろしければ昔話は一旦おいて食事にしませんか」
む……それもそうか。
「ジュール卿。
キアラに私とミルは、こちらで食事を頂く旨伝えてくれませんか?」
ジュールに名で呼んでほしいと言われ、最近名前で呼ぶようになった。
「お言葉ですが、護衛の任があります。
ご主君の側を離れるわけにはいきません」
「いえ……大丈夫ですよ。
私に危害が及ぶことは、絶対にないので」
「いえ、駄目です」
ミルが身を乗り出す。
「じゃぁ、私が行ってくるわ」
「いえ、奥さまも大事な護衛対象です」
アーロンが苦笑する。
「では、誰か使いの者を出しましょう」
「お願いします。
もしかしたら……昼食は一人増えるかもしれません」
「なるほど。
承知いたしました。
ではそのように致しましょう」
アーロンが別室にいた狼人を呼んで、伝言を命じる。
そそくさとその狼人は出ていった。
領主ともなると、政治的配慮は欠かせない。
同化を掲げておいて部族の長老から招かれる食事を断るなんて、自滅もいいところだ。
本来なら護衛だって外したいのだが、ジュールはガンとして聞かない。
狼人襲撃以来、俺への絶対忠誠ってバリバリオーラでてるからなぁ。
たまに逃げるけど…。
気がつくと、アーロンが興味深そうに俺を見ていた。
「失礼ながら……ご領主さまは、不思議なかたですな」
「そうですか? 私は別に変なことを意図してやっているわけではないのですよ」
ミルがあきれた顔で、俺を見た。
「アルは不思議と言うか……違う世界の住人みたいだから」
ミルに言われて、一瞬焦った。
もしかしてバレてるのか? とにかくとぼけるしかない。
「私はこの世界の住人ですよ」
ミルが慌てて、手を振った。
「ああ、そんな意味ではなくてね。
行動基準が違いすぎるし、16歳には見えないし」
ミルがフォローになってないフォローをする。
アーロンが、低く笑った。
「確かに、この世の16歳ではありませんな。
子供たちにも16歳になったら、ご領主さまみたいになれるか聞かれて……答えに困ったものですよ」
ミルが俺を見て困った子だとでも言いたげな表情になる。
「アルは16アルフレード歳だから、普通の人が16歳になっても……こうはならないと思うわ」
さらっと、ひどいことを言われたし。
しかも、俺を単位にするな。
「ミル……だんだん、口が悪くなっていませんかね」
ミルは俺の言葉に、少し意地悪な笑顔を返した。
「旦那様の影響よ」
さいですか。
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