第66話 前門のイギリス、後門のロシア
代表者会議が1人の女性の手に落ちて間もなく……それはやって来た。
後続のドワーフとともに。
キアラが来たし。
ヤバい! あの手紙のフォローする前に来たよ! しかも、私物大量に持ってきて住む気満々だよ。
既に、ドワーフの代表を決めてきたようだ。
「オニーシム・アレンスキーだ。
ドワーフの代表になる」
俺は内心の冷や汗を隠してオニーシムと握手する。
手回しが良い…。
だが試練は、すぐにやって来た。
キアラは笑顔とともに出迎えた全員と、挨拶をした。
キアラはミルが俺の隣にいるので、婚約者と気がついたようだ。
キアラはミルにほほ笑みかけた。
ただ……目は笑っていない。
「初めまして、アルフレードお兄さま最愛の妹。
キアラ・デッラ・スカラですわ」
キアラの言葉を聞いて、ミルの負けず嫌いな性格と独占欲に火がついたらしい。
ミルも笑顔だが目が笑っていない。
「初めまして、アルの最愛の婚約者。
婚約者だけど実質的には妻だからね。
ミルヴァ・ラヤラよ」
ミルとキアラの間に見えない火花が散った気がする。
ヤバい…何か、不穏な気配。
助けが欲しくて周りを振り返る。
あっ……全員逃げやがった! 護衛はどこにいったんだよ!
仕方ない……俺も逃げるか。
静かに後ずさりしようとする。
2人が即座に俺に向き直った。
「アル?」「お兄さま?」
デスヨネー。
「と……と……取りあえず、外で話すのも何だから私の家にいきましょうか」
いつの間にか、ジュールが戻ってきていた。
危機回避能力が高すぎるだろう。
最初からそこにいたような顔をしている。
「では、妹君のお荷物は私が持ちます」
そう言って、キアラの荷物を持った。
肝心なときに逃げるな。
にっこりほほ笑むキアラ。
さっきまでの不穏な空気は幻のようだ。
「ありがとう」
「キアラ、こっちに来て大丈夫なのですか? 後続の手配とか…」
「後任を2人のお兄さまにお願いしたら、快く送り出してくれましたわ」
おうふ、兄よ……。
もう少し粘ってくれ
キアラは笑顔だが、目が笑っていない。
「あの手紙を見て、黙って待つとでも思いましたか?」
忘れてよ……。
ただの過ちだからさ!
「あー、あれは手違いで……」
「アル、手紙って何?」
あ……ヤバイ……こっちにも説明してないよ…。
居たたまれない空気の中、俺たちは無言で屋敷に向かう。
◆◇◆◇◆
キアラの荷物自体は別室に置いたが、なぜか俺の部屋に3人が揃う羽目になった。
ミルがキアラにほほ笑みかける。
今度は目が笑ってた。
「えっとキアラちゃん? アルから話をよく聞いていたわ。
自慢の妹って言っていたわ」
ナイスだミル。
争いは何も生み出さないよ。
「私も名前は伺うのは初めてですが、とてもとても大切な婚約者がいると伺いましたわ」
キアラもミルにほほ笑み返す。
今度は目が笑ってた。
衝突は避けられた……か。
すぐにキアラは真顔になって、懐から手紙を取り出した。
「それよりも…このお手紙です。
もしかしてミルヴァお姉さまは、御存じないのですか?」
「何のこと?」
「兄からの手紙を、心待ちにしている妹に送られてくる。
酷く素っ気ない手紙ですわ」
ミルは意味が分からないといった顔をしている。
「素っ気ない?」
キアラはミルに手紙を黙って差し出す。
あ……詰んだ……これ詰んだわ。
ミルは黙って、手紙を一読した。
見上げた顔は無表情だった。
「ええと……これが手紙?」
「待て! 間違いだ! それは下書きで、ちゃんと本当の手紙はある」
キアラの視線が厳しくなった。
「では娼婦が必要って何ですか?」
娼婦の単語にミルが眉をつり上げる。
「私だけじゃ不満なの?」
連携技でキアラが追撃。
「お兄さま、娼婦が必要なほど飢えてらしたのですか?」
ヤバイ……1人ならしのげるが、二正面作戦は無理だ!
前門のイギリス、後門のロシア。
ドイツ敗北必至。
「それは部下から女性が欲しいと言われていて、その流れだ……」
俺は自分の命を守るために、必死の弁明をした。
2人は本気で怒っていたわけでなく、どうやら落ち着いてくれたようだ。
だが、そんなことでは追撃は終わらなかった。
ミルが小さくため息をつく。
「それは分かったわ。
アルが他の女性に手を出すとは最初から思っていないし。
でも……キアラちょっと、これを見てほしいの」
ミルがキアラに細かい文字が、びっしり書かれた紙を差し出した。
嫌な予感しかしない。
女2人連携してね? しかもいつの間にか仲良くなってね? 名前の呼び方が変わっているし!
キアラが怪訝な顔をしていた。
「これは何ですの? お姉さま」
「アルの仕事のスケジュールよ。
これでも相当省略しているの。
キアラからも言ってほしいのよ。
働きすぎだって」
キアラが俺に責めるような目を向けた。
「これは……やり過ぎですわね。
お兄さま?」
「あーそれはだな……」
「お兄さまはお姉さまを愛してはいないのですか?」
「いや愛しているに決まっているだろ」
キアラの追撃は容赦ない。
「では……どうして心配を掛け続けるのですか?」
「いや……俺が決めないと駄目なことが、たくさんあってな……」
ミルがジト目で、俺をにらんでいる。
「仕事を部下に任せろと言っているけどね。
何か理由つけて仕事するのよ」
少し目をつむっていていたキアラが、ミルにほほ笑みかける。
「分かりましたわ。
お姉さま、ここは一つ協力し合いませんか?」
ミルがキアラのほほ笑みに、首をかしげる。
「何かしら?」
「お兄さまに仕事をさせすぎないように」
ミルが満面の笑みを浮かべた。
「ええ、ぜひ協力してちょうだい。
心強いわ! 私1人だと抑えきれなかったのよ」
キアラは自慢気に胸を張った。
「お任せください。
私が目を離すと、駄目みたいですね……娼婦とか戯言が出てくる始末ですしね」
根に持っているじゃねぇか!
そして代表者会議は、2人の女性に牛耳られることになった。
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