第65話 女はつよし

 情報の収集を始めたが、そう簡単にいかない。

 子供たちも何か知ってそうだが。

 怒られると思ってか、なかなか申し出もない。

 急かしても仕方が無い。

 もう少し待つか。


 そう考えつつ1日の仕事を終えて、ミルと2人して部屋でゴロゴロしている。


「アルこれずっと、1人でやっていたの……?」


 思わずため息が漏れた。


「だよ……」


 ミルは転がりながらジト目になった。


「ちょっと尋常じゃない量よ。

全部を回って、それぞれの疑問に答えて解決策を指示でしょ。

別の場所では前の解決策で大丈夫か確認って……」


 立ち上がりでノウハウがないのだ。

 近代的思考を有効に活用しての指示は俺にしか出来ない。


「もうちょっと、行政官が育たないとね……」


 ミルが遠い目をした。


「すぐには無理なのね」


「残念ながらね……」


「私は手伝っているだけだから良いけど。

アル頑張りすぎると、体を壊すわよ。

どっかでちゃんと休まないと」


「分かってはいるのだけどね……」


「私が代表者会議で、アルがちゃんと休めるように言うわよ」


「都市の立ち上がりは大変なのだよ……」


 俺の歯切れの悪い態度に、ミルの表情が険しくなった。

 ガバっと起き上がって、俺をジト目で睨んできた。


「何を言っているの! 大きくなったらまた、別の悩みで忙しくなるのでしょ!」


「おっしゃるとおりで……」


 暖簾に腕押しと思ったか、ミルが厳しい目になった。


「ちゃんと休まないと、夜はすぐ寝るだけにするわよ」


「うっ、それは困る……」


 ミルがビシっと、俺に指をさしてきた。


「多少何か問題があっても、仕事は任せて黙って見守ること!」


 転がりながら俺は両手を挙げるポーズをした。


「了解……」


「旦那様が過労死なんて嫌だからね」


「ミルにはかなわないな」


「アルは先が見えるから。

ついつい口を出すとか……自分でやりたくなるのだろうけど……。

それだといつまでたっても、皆が育たないわよ」


 お説教タイムである。

 と言っても悪いのは、無駄に心配させている俺なのだが…。


「そうだな。

ミルと付き合ってないと、俺は過労死していたかなぁ」


 ミルは一瞬うれしそうな顔をしたが、すぐに険しい表情になる。


「そんなこと言っても誤魔化されないからね」


「げふっ」


 形勢が悪いので、話を変えよう。


「それはそれとして……隠れ里のエルフって、何を食べていた?」


 ミルが、ちょっと考え込んだ。


「うーん、狩りで肉を食べるわね。

あとは野草やキノコとかかな」


「そんなに食べないのかな」


「動かないと、余り食べなくてもいいわよ。

でもいろいろ動くなら、人と食べる量は変わらないわよ」


「そうか、農業とかはしないのか」


「森を開墾して、農業って概念ないからね。

どうしたの?」


「いや、まだ先だろうけどさ。

隠れ里のエルフが合流したときに、食事が合わないと問題だろ。

何か対処が必要なら、事前に準備をしないといけないなと」


 ミルは大袈裟なため息をついた。


「里のことを考えてくれるのはうれしいけど…。


「でもさ、食事は基本だぞ」


 そのまま、1分ほど凝視された。

 そしてミルは諦めた様に肩を落とした。


「分かったわ。

アルは案とか議題を出して。

あとは他の人たちで分担ね」


「それ話が飛びすぎでないのか…」


 ミルが真顔で俺をのぞき込んだ。


「アル…


「いや、それは絶対ない」


「なら決まりね」


「ちょっと待ってくれ。

すぐには無理だよ」


 ミルがため息をついた。


「そうやってまた粘る……。

分かった……アルが絶対担当するところだけ決めて。

あとは他の人に投げて。

それ明日決めるわね」


「お、おう……。

ミルって、こんなに押し強かったっけ」


「誰のせいだと思っているのよ!

私だって、折角二人きりになる時間に寝るだけ何て嫌なのよ!」


 何かバッチリ尻に敷かれている。

 女は強い…。


 こうして代表者会議は、1人の女性に支配されることになった。

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