第63話 娯楽の必要性

 もう少し整備が進んでから、ミルを呼ぶつもりだった。

 正直、もっと早く呼ぶべきか悩んではいた。

 だが出会ってしまうと、細かい話はどうでも良くなってしまった。


 そのまま子供たちの前に関わらず、ミルが飛び込んでくると抱きしめていた。

 俺もとても会いたかったらしいと気が付いた。


 そして、子供たちは騒然。


「おおぉ!!!」とか「キャー!!!」とか騒いでいる。


 男の子たちは興味津々。

 女の子たちは手で顔を覆いながら、指の間からチラチラこっちを見ている。


 そうしていると、ぞろぞろ人が集まってきた。

 空気を読まない先生がさらっと、挨拶をする。


「ミルヴァ、久しぶりだなー」


 ミルは先生を見ないまま返事する。


「ファビオさん、久しぶり」


 チャールズが失礼にも意外そうな顔をした。


「ご主君に恋人がいたのか」


「いえ婚約者ですよ」


 訂正をすると、周りから冷やかしの口笛が飛び交う。

 オラシオが心底から、意外そうな顔をしていた。


「驚いたな、色恋に無縁かと思っていたぞ」


 ジュールまで笑っていた。


「ご主君にも人間らしいところがあったのですな」


 子供の一人が言う。


「えー! 領主さま、ケッコンする人がいるって言ってたよ」


「ちがうよー! あれは、ミエをハッテルだけって、お父さんが言ってたよー」


 別の子供の攻撃が痛い。 

 抱きついたままのミルにまで責められる。


「アル、一体どんなことをしてきたのよ」


「いやいや、ごく普通ですよ」


 これ、しばらく酒の肴にされそうだ。

 オラシオが真面目腐ってせきばらいした。


「子供たちの教育に悪いので、離れた方が良いと思うが」


 慌ててミルが離れた。


「あ! 御免なさい! 思わず……ね」


 チャールズがウインクした。


「いえ、別に構いませんよ。

ただ、それは夜になって2人きりのときに存分にどうぞ」


 ミルの顔が真っ赤になって、救いを求めるように俺を見る。

 皆に、紹介をすることで雰囲気を変えよう。

 俺は、全員を見渡してからせきばらいした。


「改めて紹介します、私の婚約者のミルヴァです」


 ぎこちない様子で、ミルが口を開く。


「アルの婚約者のミルヴァ・ラヤラよ。

よ……よろしくね」


 先生が、遠い目をする。


「ここまで人前でイチャついていたかなぁ……。

ああ、前は人前でキスしていたな」


 俺がせっかく流れを変えたのに戻しやがった。

 先生がニヤニヤしながら、ミルを見た。

 ただのスケベオヤジである。


「坊主のところに来たってことは、そのまま一緒に住むのか?」


 ミルがこっちを見ながら、口を開く。


「え、ええ……アルさえ良ければだけど」


 そんなに心配しなくて良いよ。

 俺は、ミルにウインクした。


「そうなります。

警護も楽でしょうし」


 チャールズがからかうような顔をした。


「ご主君の住居を優先して良かったですな」


「そうですね、結果的にはそうなりますね」


 さすがに、テントで2人きりは切ない。

 最低限でも住居ができていて良かった。


 珍しく、ジュールが挙手をした。


「婚約者とのことですが、ミルヴァさんをどのようにお呼びすれば良いですか?」


 みんな、一瞬固まった。

 先生が不思議な顔をした。


「ミルヴァでいいだろう」


 チャールズは、肩をすくめた。


「奥方でも通じるだろう」


 オラシオが首を横に振る。


「結婚までしてないのだから、それは早いのではないか?」


 まだこの町は、娯楽が少ないのだった。

 他の娯楽を用意しないと危険すぎる。

 揚げ句、本人を無視しておいてああでもないこうでもないと言い始めた。

 ミルがあきれた顔になった。


「アルの町って、いつもこんな感じなの?」


 俺は遠い目で答える。


「いや、たった1週間に7日だけですよ」


 ミルにため息をつかれた。


「それ毎日じゃない」

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