第59話 お爺ちゃん孫に好かれる

 うっかりってあるだろ

 忙しいと、つい物事が雑になる

 あとで振り返ると、何故そんなことをしたってレベルで雑な話。

 

 そして、部下たちは薄情である。

 俺が凡ミスすると喜ぶ。

 俺は娯楽道具ではないのだが。

 仕事を振りまくっても、まだ俺の仕事山積み。

 秘書が欲しいよ。


 何をやったかって? 手紙だよ! レター! キアラに送るヤツ。


 ちゃんと書いた方を出さずに

 下書きのあの箇条書き

 揚げ句メモ代わりで、末尾に娼婦が必要って書いたヤツ。


 次の返事が怖い。

 本人が直接乗り込んできそうで怖い。

 だが、俺は過去を振り返らない。


 もうどうにでもなぁれ。


                  ◆◇◆◇◆


 狼人が400人ほど移住したおかげで、労働力はだいぶん改善された。

 できるだけ同化を進めるために、俺自身が狼人の子供たちと積極的に交流することにしている。

 狼人も移住先のトップが丸腰で、自分たちの所に入り浸れば疎外感は感じないだろう。

 おかげで同化は順調に進んでいる。


 前回の戦闘で、戦闘要員が壊滅となったので労働力としてのみ計算する。

 70人分の戦闘力がいて20名欠けると、もう組織としては成立しない。

 怪我人を含めて半分近く戦闘不能なら、なおさらだろう。

 ゲームか島津兵くらいだろう。

 9割減っても機能するのは。


 オラシオからは獣人族は戦えるので、戦闘力として計算してくれと言われた。

 だが男女の人口バランスを考えると、これ以上獣人の男が減るのはまずい。

 そこは断る。


「これ以上、獣人で父親がいないものは増やしたくないのです。

ただ将来、子供たちが戦闘力として、協力したいのであれば……ラヴェンナ騎士団に迎え入れます」


 と言ったら全員唖然呆然。

 騎士は人間がする、といった固定概念があったらしい。

 この予想外のいつもの常識破りに、オラシオは引き下がった。


 だが町を守る力には絶対なりたいと申し出られたので、有志には軍事訓練を施して、緊急時の防衛力として見込むことにする。


 そして、インフラの構築も急ピッチで進め始めた。

 そんな中、オラシオに確認したいことがあった。


「オラシオ殿はエルフの隠れ里が、付近にあるという話を知りませんか?」


 先生は、ニヤニヤしだした。

 オラシオは首をひねった。


「ああ……確かに噂は聞いたことはあるが、実際に見たことはないな」


 ふーむ、そう都合よくはいかないか。

 となると、内陸部にも影響範囲を広げないといけないか。

 オラシオが真面目腐って、俺に頼みがあると言ってきた。


「それとは別に、子供たちがご領主の手伝いをしたいと騒ぎ出しているのだ。

何か手伝わせてほしいのだが」


 俺は、首を横に振った。


「いや、子供は遊べるとき遊ぶ。

そうは思いませんか?」


「それはそうなのだが、われわれはここに移住するときの経緯もあってな。

子供心に何か、町の役に立ちたいと思っているようなのだ」


「いや、経緯って……もう同じ市民ですよ。

気にしなくてもいいと思うのですが」


 オラシオがせきばらいをした。


「それは建前でな……ご領主は、われわれの子供に人気あるのだ」


 チャールズが面白がる顔をした。


「ほう……子供に人気ですか? あれですかな? おじいちゃんが、孫に好かれるってヤツですかな」


 一同爆笑。

 ドンドン、俺の扱いひどくなってね?

 取りあえず、矛先をそらそう。


「先生に非モテって言われるくらい、傷つくのですが」


 先生が抗議する。


「どうしてそこで、俺が出てくるんだよ!」


 俺はさらりと答える。


「使命感のような何かが、私に降臨したのです」


「そんな使命感は、捨てやがれ!」


「とはいえ、安全で何か頼める仕事ってないのですよね」


 オラシオが即答してきた。


「狩りとかはできるぞ。

われわれ狼人は子供のときから、狩りができるように訓練している」


「うーん、そうなるとですね。

他の遊んでいる子供たちの肩身が狭くなったりして、トラブルの元になるのですよ」


 オラシオがため息交じりに言った


「子供たちの気持ちもわかるが、ご領主の言っていることもわかる。

難しいものだな」


 俺の年齢もあるからな。

 境目は16かな。


「決まり事として16歳未満は、仕事をさせないと決めますか」


 先生が皮肉交じりに言う。


「働かせるのは聞いたことあるがな。

働かせないってのは……初耳だな」


 チャールズが苦笑して言う。


「初耳なんて耳にタコができるほど……ここで聞きましたからな」


 オラシオまで笑っていった。


「違う世界に迷い込んだと思うときがある」


 また話が、怪しい方向に向かっている。

 方向転換することにした。


「本来は16歳までは、読み書きや勉強などをしてもらう。

そうなると教師か……」


 チラッ……俺の視線を感じた先生が動揺した。


「まてまてまてまて! 絶対手が回らないぞ! 専門家を招いてくれ!」


「ま、そうですね。

さすがに子供が40人くらいですからね。

手が絶対に回らないですからね、次のキアラとの往復便で依頼しましょう。

子供たちが働きたいことについては、そんな感じで説得してください。

勉強してくれると、将来町の役に立ちますからね」

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