第3章 都市開発開始

第43話 兄と妹の戦い

 前世でね、町づくりのストラテジーとか好きだったのよね。

 渋滞と戦う町づくりゲームとか。

 ちょっと違うけど、カリブ島の独裁者プレイとかね。

 ガンジーが核兵器のスイッチを握りながら恫喝してくる。

 そんな太古から文明を進めるゲームも好きだった。


 現実はマウスクリックして、道路が引ける世界ではない。

 使徒パワーを使えば、そんなことも可能なのだけどね。


 でもそれは使わないからさ。

 現実的な人力でやらないとあかん。


 何でこんなことを考えているかってさ。

 はい現実逃避です。


 何とかキアラのサバ折りから逃れて、帰還を家族に知らせた。

 兄ふたりも政務地獄から逃げるために、出迎えと偽って帰省している。


 普通の挨拶と、道中の報告を済ませてから夕食となる。

 そういえば家令のマリオは、なぜかすごく痩せていたな……。


 使徒認定で否とでたが、大体、予想はしていたようだ。

 これは拍子抜けするほど、あっさり済んだ。

 今後の話は、翌日にすることになったのだが……。


                 ◆◇◆◇◆


 部屋に戻ると、キアラが入ってきた。

 あれ? 鍵を掛けていたはずなのだが。

 どうして鍵をもっているのだ?

 ベッドに転がっていた俺に、素早く走ってきて馬乗りに飛び乗った。


「えーっと、キアラ?

嫁入り前の御令嬢が、そんなことをしたらダメですよ。

そもそも鍵を掛けていたはずですが」


 キアラは笑顔だが、目が据わっていた。


「お兄さま。

私に何か説明が必要なことは有りませんか?

山ほど……沢山、それは尽きないほどに。

それと合鍵なんて用意する時間、山ほど有りましたわ」


 といった次第……。


「特にやましいことはないですよ」



 これはヤンデレルート? いや妹でヤンデレはヤバいって……。


「皆にはまだ言っていませんが、将来結婚する恋人はできましたよ」


「それ以外で、現地妻を何人つくられたのですか?」


 ちょっと待て! 方々で女をつくるとか、ひどい疑惑だよ。


「つくっていないですよ……」


 3分ほど凝視された。


「わかりました……。

お兄さまは、御自覚がないようですね。

実は、比類なく素敵な殿方です。

恋人が数ダースできても不思議ではありませんが……。

信じます。

ええ……信じます。

信じますとも」


 過大評価だろう。

 でも理解してくれたか。

 ちょっと怖いのですが。


「その人はいつ紹介をしていただけるのですか」


「私の計画が少し落ち着いたら呼びますよ。

キアラとはきっと仲良くなれると思っていますよ」


「そうですか。

では未来のお姉さまに会うのを楽しみにしますわ」


「納得してくれたなら……。

降りてくれませんかね?」


 キアラがプイと横を向いた。


「お断りします」


「おいおい」


 キアラが、顔を真っ赤にした。


「私が半年どれだけ心配して待っていたと思うのですか!

女物の服を大量に買って! 手紙の一つもくれない! 揚げ句恋人まで!」


 いや、何か暴走していないか?


「ああ……手紙を出したら絶対心配する。

それは目に見えていたのですよ」


「どういうことですか?」


「取りあえず、降りてくれませんか?」


「お断りします」


「えっーと」


「お話が終わったら考えます」


 おいそれ、降りないフラグじゃないか。

 だがな、キアラ。

 俺にも、手が有る。

 兄と妹の戦い、ここで負けるわけにはいかない。


「降りないと、頭を撫でてあげられないですよ」


 硬直するキアラ。


「ひ……ひ、卑怯ですわ……」


 兄貴をなめるな。

 1分悩んだ揚げ句、渋々俺の体から降りてくれた。

 体を起こし、約束通り抱き寄せて頭を撫でる。

 御機嫌斜めなので、ちょっと強めに抱き寄せる。

 その意図は伝わったので、キアラは御機嫌な顔になる。


「それで……。

どのような理由で心配するのですか?」


 ざっくり道中に起こった喪女シルヴァーナと、先生の御乱行について話した。


「なるほど……。

先生とはちょっとをする必要が有りますね。

やはり先生でなく私がいくべきでしたわ」


 あ、これ先生は締め上げられるな。


「それでこの後、お兄さまはどうなさるのですか?」


「一応、プランは有りますよ」


「先に教えてください……私だけに」


 このお願いするような上目遣い。

 何だろう……。

 レベルが上がっている?。


「ラヴェンナ地方の開発を、王家から催促されているでしょう。

そこの開発担当になるつもりですよ」


「一緒にいってお手伝いします」


「ダメですよ。

落ち着いたら呼びますから」


 キアラが、俺の服をぎゅっとつかむ。


「嫌です! 一緒にいきます!」


「キアラには、本家に残って手伝ってほしいことが有るのですよ。

他の人に頼めないのです」


 キアラは膨れっ面になったが、諦めたように普通の顔に戻った。

 そして俺をじっと見つめる。


「話は変わりますが……。

お兄さま?」


「うん? 何ですか?」



ぶっ……予想外の攻撃。

キアラは笑顔だったが、目が笑っていなかった。

そのまま俺に顔を近づけて、口を開いた。


「やはり違う話し方をされているのですね? 分かっています。

お兄さまは特別な人には、演技した話し方をしないでしょうから」


 この流れはヤバイ。


「私はその特別じゃないのですか?」


 潤んだ目で見上げられる。

 その破壊力は反則だよ……。


「もちろん特別ですよ」


「なら、私も同じように話してください!」


 あかん、逃げられない。


「分かった、分かった。

これでいいかい?」


キアラは、当然と言わんばかりのお澄まし顔になった。


「結構ですわ。

ふたりきりのときは、そうしてくださいね。

お兄さまに特別な人がいるのは当然ですが、その中に私が入っていないのは、断じて我慢がなりませんので」


 怖っ! どこで、どうやって……。

 このヤンデレルートに入ったのか。


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