第42話 生まれた時に置き忘れたもの

 ついに、宿場町に着いてしまった。

 一抹の寂しさを感じつつも全員を見る。


 先生がしんみりしていた。


「こんなしんみりする巡礼は、いろいろ見てきたけど初めてだよ」


 喪女シルヴァーナが暗い雰囲気を飛ばそうと明るい顔になる。


「あと、巡礼地で無感動なのもね」


 ミルも笑顔になった。


「そうね、でもすごく楽しかったわ」


 みんなでハグし合って別れのあいさつをする。

 おっと、俺と先生はしないぞ。

 喪女シルヴァーナが俺を指さす。


「冒険で困ったらアルのところに泣きつくわ。

アタシの事を忘れないでね」


 いいけどさ、酒瓶を握って泣きつくのだけはやめてくれよ


「悪夢にでそうだから忘れないですよ」


「ちょ! 失礼な! 童貞の口の悪さが伝染したんじゃない?」


「かも……しれませんね」


 苦情を申し立てる先生。


「何で、俺のせい!?」



 泣きそうなミル。


「ちょっとの間、お別れね」


「すぐ会えますよ」


「そうね……」


 ボッチ同士が冷やかす。


「「あーあー、いいですなー」」


 ミルは赤面したが、予想外の行動にでた。

 唐突にキスされた。

 マウス トゥ マウス。

 頰ではない。

 このままでは、負けた気がする。

 負けじと優しく抱きしめた。


 どこかからかボッチたちの断末魔の叫びが聞こえる。


「「ぐわぁぁぁぁ」」


「できるだけ早く迎えに行くよ」


「うん、待っているわ」


 どこかからかまたボッチたちの断末魔の叫びが聞こえる。


「「慈悲の心はないのかぁぁぁぁ」」


 ボッチたちの断末魔の叫びが心地よい。


 後ろ髪をひかれながら、俺と先生は帰路につく。

 先生がちょっとしんみりした顔になる。


「坊主とはこれでお別れかな」


「何を言っているのですか……酷使しますよ。

これからたっぷりと」


「はぁ?」


「後で分かりますよ。

根回しは済ませますから」


「おまえ……慈悲の心はないのか?」


「生まれたときに置き忘れたようです」


 

 そんなやりとりをしながら屋敷につく。

 キアラが待っていた。


 俺を見ると駆け寄ってきて俺に抱き着いてきた。


「お兄さま、おかえりなさい」


 この小柄な体のどこに、そんな力があるのか不明なくらいの強さで抱き着かれた。

 そして、さらにその力が増した。

 ちょっと痛いって。


「キアラ、ちょっと痛いよ」


 キアラは返事はせずにさらに力を増したまま、低くよく通る声で言った


「お兄さま……このはどこから来ているのですか?」

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