第41話 女の勘とは観察眼

 夕食のときに4人で巡礼の思い出話をして盛り上がる。

 ミルは合流する前の話を聞きたがった。

 痴女だった歴史を抹殺したがった喪女シルヴァーナが騒ぎ出す。

 先生は変態発言をなかったことにしようと悪あがきをする。


 あきれつつもミルは、俺をいたわるような目で見た。


「えーっと、アルもしかして2人の保護者?」


 さすが未来のお嫁さん。


「実態はそうですね」


 2人が不満そうな顔をする。


「「異議有り」」


 ハモりやがった。

 ミルがジト目で2人を見る。


「ファビオさんはアルの保護者よね、ヴァーナは年上でしょ?」


 2人はうなずく。


「2人の行動を振り返って、その言動がそれらに該当するの?」


 追撃に2人は硬直。


「ま、まあ…たまに羽目を外すことも有ったかな…」


「そ、そうね。

たまぁによ、ホントごくごくたまぁぁに」


 ミルがジト目で2人を見る。


「自覚は有るのね」


 先生は慌てふためいた。


「いや……待て。

坊主はどうにも16歳でなく俺より年上に見えるんだよ……」


 それで坊主呼びはどうなのよ。

 喪女シルヴァーナも先生に同調した。


「そうそう、老人臭いのよ。

それでつい……」


 俺は16歳だ。

 合算は……ノーコメントだ。


 ミルがため息をつく。


「それはまあ……否定しないけど……。

ちょっとアルに甘えすぎよ」


 微妙なところだが……いいぞ! もっとやれ! 

 先生がひるむ。


「くっ! ミルヴァまで敵に回ると分が悪い……」


 喪女シルヴァーナが憤慨した顔になる。


「恋人同士で結託して攻撃するなんて、アタシたちはボッチよ。

慈悲の心はないの?」


 見苦しい大人たちだ……あと俺攻撃してないぞ。

 そしてボッチを盾にするな。

 思わず俺は苦笑した。


「いや、坊主笑ってないで助けてくれよ!」


「そうよ、薄情よ!」


「いや、さすが私のミル。

もっとやってと思っています」


 俺は笑顔で返す。

 ミルは俺を見て赤面してしまった。

 情熱的なタイプだけど、あとで恥ずかしくなって赤面するタイプだな。

 そこがかわいいのだが。


「そこでさらっと、キザなことを言うな!」


「くっ、ボッチの私たちへの当てつけね……この悪魔!」


 いい機会だ、少しばかり反撃しても許されるだろう。

 黙ってミルの肩を抱き寄せて、笑顔で攻撃する。


「そうですかね?

うらやましいと思うならお相手を探しては?

先生とシルヴァーナさんは結構お似合いかと」


 ミルが慌ててうつむくが、別に俺を振りほどかない。


「ちょ、ちょっとアル……人前でいきなりちょっと……」


 やはりかわいいな。


 大人2人はお互いを凝視してまたハモった。


「「ない」」


「いや、ちょっと待て! 平原痴喪女! ないわってないだろ!」


「はぁ、変態永遠童貞神! へんな造語で人を呼ばない! ないったらないわ!」


 仲良く言い合いを始める。


「一周回って2人、仲が良いと思うのですけどね」


「そうね。私もそう思う」


「「それはない!」」


 こんなバカ騒ぎももうすぐ終わりか。

 うっとうしいとも思ったが、これも楽しいと思っていたようだ。

 仲良く酒を飲みながら言い争いをしている2人は放っておく。

 ミルと部屋に戻ることにした。


                  ◆◇◆◇◆


 一息ついてからミルがジト目でこっちを見てきた。


「アルって女慣れしている感じがするのよね……」


「そう? 誰にでもそう接しているわけじゃないだろ?」


「そうなのだけどね、だからタチが悪いのよ」


 ミルが俺の合図を見ずに黙って、遮断魔法をかける。

 これパターンなのかな?


「どうしたの? こうして欲しかったのでしょ」


「よく分かったなぁ」


 ミルは俺に笑いかけた。


「アルのことをしっかり見ているからね」


「俺……結構バレバレで分かりやすい?」


 ミルが悪戯っぽくウインクした。


「あのね……女って特別な人のことは本当によく見るのよ。

だから分かるの。

何を考えているとかね。

それを女の勘って言われているわね」


 俺は両手を上げて降参のポーズをした。


「かくして、世の旦那は嫁の尻に敷かれると」



「愛情がなくても見てはいるのよ。

目的は違うけどね」


「おお、怖い怖い。

気をつけよう」


「別に怖いと思ってないくせに。

愛情が有れば大丈夫よ。

それで馬車で何を考え込んでいたの?」


 そこで俺の転生の話は除外して、神による使徒の選別……使徒と教会の共依存システムについての話をした。


「ダメね、もうアルだからってことにする。

驚かないようにするにはそれしかないわ。

それで使徒が、ハーレムをつくるときに……どう呼び寄せているのかって話よね?」


 結構きわどい話をしている。

 情けないが今、俺が使徒モドキだなんて説明をする勇気がない。

 ミルが優しくほほえんだ。


「あのね、私はアルのことは信じているわ。

気持ちは絶対に変わらないよ。

何か考えているのは分かるの。

だから、気持ちの整理がついたらちゃんと教えてね」


 おおぅ……確かに本当によく分かっている。

 こいつは敵わないな。

 俺が捕まえたのか……捕まったのか……どうでもいいかなと思う。

 思わず頭をかいて話を続ける。


「ここだけが分からない。

何で都合よく呼べるのか。

都合よくかませ犬がいるのか」


「その神様がいろいろ手を入れているとか?」


「そこは違う気がする。

そもそもそんな干渉をする力はないと思う」


 ミルはピンと来ないようで首をかしげた。


「干渉はできないの?」


「神からすれば可能ならとっくにいろいろ実行しているだろうし、自分より信仰の対象になりやすい使徒なんて使わないだろう」


「使徒を選んで作り出すことはできるけど、やれることはそれだけってこと?」


「そうだね」


 ミルは口に指を当てて考える仕草をした。

 恋人になるとそんな仕草もかわいくみえる。 

 不思議なものだ。


「使徒が恋人になる人を呼び寄せるってイメージ?」


「推測だけれどもね」


 ミルはしばし考え込んで俺を見た。


「うーん、見当違いだったらゴメン。

アルの言っている魔法ってやつ、あれと似ているかな?」


「魔法?」


「ほら。

体内魔力をだして、自然魔力を引き寄せるってやつ。

無意識で欲しい人をそんな感じで呼び寄せているか、欲しい人のところに向かっちゃう」


 興味深いな。


「ぜひ続けて」


「精神的に引き合って、恋人と出会うのよ。

それと……かませ犬だっけ? たまたま出会う場所にいただけじゃないのかな?」


「たまたま?」


「人を好きになるって感情でしょ。

それが強く出ちゃうの。

そんなときって理性なんて吹き飛ぶわよ。

私も経験しちゃったからね。

凄い心の力で引っ張られちゃうわよ。

だから、もともとダメな人も感情が暴走しちゃって、本能のまま行動しちゃうの」



 俺は真顔になっていた。

 ミルはちょっと赤面してバツが悪そうにした。


「あー、やっぱりゴメン。

見当違いだったかな……って!」


 俺はガバっと立ち上がり、ミルの手をとってスキップしながら踊り出していた。

 まさに本能のまま。 

 本能で踊るのはどうなのかと思ったが嬉しかったのだ。


「それだよ! それ! ありがとう、ありがとう。

やっとつながったよ!!」


 ミルは俺の踊りになすがままで苦笑してした。


「こんなときだけは16歳みたいね」

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