第40話 共依存するシステム

 巡礼は特筆することもなく終わった。

 結果は否だったが、特殊な認定方法を聞いたとき……内心ものすごい冷や汗をかいた。

 顔は平然だが、服に隠れた部分は汗まみれという我ながら器用な芸当。


 どんな認定方法かといえば笑ってしまう。

 隠された周到さに頭の下がる思いだった。


 俺が男だったので、こんな感じだそうな。


 巡礼の最中に、男に絡まれている女性を圧倒的な力で助けて仲良くなる。

 絡んでいる男は常識外の馬鹿である。

 道中で複数の女性と親密になる。

 普段は現れるはずのない強力な魔物が現れて、圧倒的な力で撃退する。


 テンプレに合致したら、はい認定と来たもんだ。


 そこまでするかね。


 俺の場合は、ミルと親密になっている。

 だが喪女シルヴァーナが騒いで、お互いを意識した流れと思われたらしい。

 当たらずとも遠からず。

 ちょっとだけ先生を見直した。

 ちゃんと仕事していたのだなと。


 力は全く使っていない。

 親密になった女性は1人なので該当せず、とのことであった。

 使徒は異性を何人もたらしこむのか。


 考え込む……これは一体何を示しているのか。

 とても重要だと思う。

 あきれたような喪女シルヴァーナの声が、遠く聞こえる。


「何かまた……固まっているよ。

ホント、考えるのが好きだねぇ。

彫像でも作られそうだわ」


 周囲を流れる雑音のように、そんな声は意識から外れる。


 確かに、ミルとの出会いには信じられない馬鹿がいた。

 普段から馬鹿だろうが……あそこまでではないと思う。

 力をもらった者の願望が実現する、物理的ではなく精神的に影響を与える。

 そして影響を受けやすいものが引き寄せられる。

 さらに、一時的に理性が大きく減退して本能的になる。


 それで考えれば、ある程度は説明がつく。


 ミルの場合は、具体的な要望だったのだが……そんな的確に引き寄せられるものなのか。

 この話は一度おいておこう。

 他の条件だ。


 出てこないはずの強力な魔物が出てきて撃退か。

 何か力を使って、強さを見せつけたいという願望か?


 無自覚とか目立ちたくないとかいっているヤツの前に、接待の如く魔物が出てくるのか。

 もしかして……。


 俺は強いのだけど、別に力なんて使いたくはない。

 絶対に目立ちたくないんだよ。

 かーつらいわー。


 地獄のミサワ的な……そんなノリか?


 目立ちたくないと思っているのは建前で、本音は目立ちたくてウズウズしている。

 力を使う言い訳や動機としての魔物なりかませ犬が出てくるのか。


 俺の場合は、本音ですら使う気がないから魔物は出てこなかった。

 戦いたいと思えば、生息範囲外の魔物を呼び寄せることは可能だな。

 専用の撒き餌みたいなものか。

 強いからこそ、テリトリー外に移動できる。


 ミルのケースは俺が実はエルフ好きだってことか。

 そこで、俺の欲しがった関係者の条件に合致したと。


 つまるところ深層心理で力を使いたがるヤツは、使いやすいように世界が適応して接待してくれるのか?


 深層心理でハーレムを作りたがっていると、女が引き寄せられる?

 何でこんなに女性が寄ってくるのか、と表向きは困ったフリをしている。


 本能では盛っていると…。

 フェロモンのように、女性を引き寄せるなんてできるのかねぇ。


 待てよ……困ったときは大本に立ち返る。

 つまり、神とやらは引っ張ってくる魂の種類は決めてある。


 いわゆる承認欲求があるが、転生前では満たされていない。

 だが、犯罪をしてまで欲求を押し通したくはない。


 俺が! 俺が! で積極的に何かするタイプではないが……頼まれるとやってしまう。

 1人が好きといいながら、実は皆からチヤホヤされたい。

 そして転生前では絶対に縁のないハーレムに憧れていると。


 単純な分類はできないが、大体そんな傾向か?

 俺ってそんなヤツだったっけ……。

 ちょっと自己嫌悪しそうになるが、俺は俺だしどうしようもない。

 同類の生け簀にいたらしいからな。


 それで精神的なものには神とやらは介入できたな。

 ただし、白を黒に変えられないから、元の素養があるものを選べば干渉しやすいと。

 白をライトグレーにできる程度かもしれん。

 白を黒にできるなら、俺はとっくに力を使っている。


 ここまではいいな……いい感じで見えてきた。

 そして、選ばれたヤツは大体善意で力を使う。


 承認欲求も満たされて、周りもハッピー。

 そして無条件に称賛と愛情が得られてハッピー。

 私憤で人を殺しても、なぜか称賛されてハッピー。


 オーバーテクノロジーを持ち込んで、周りにもご利益がある。

 使徒と仲良くなれれば、いろいろな面で優遇される。

 罪を犯しても無罪放免。

 気に入らないヤツは使徒が始末してくれるか、なぜか自滅する。


 そんな御利益のある使徒が死ぬと、災害が起きる。

 プラスからマイナスに一気に落下。

 そうすると周りの依存心が高まる。


 そこにもともと精神的権威のあった教会がのっかる。

 そして全ての世界は、このサイクルに組み込まれる。

 ただし、力があっても使徒は不完全な人間だ。

 当然失敗はする。

 だがこのサイクルに組み込まれると、失敗自体が不都合になる。


 転生前でも、独裁者の不都合な過去は改変されていた。

 困ったことに呼ばれた魂は、自分の失敗を直視するタイプではない。

 強制されれば、自分が正しいと思いながら反省したフリをする。

 だが内心ではなかったことにするか、自己正当化に終始する。


 周りが気を利かせて、失敗をごまかしてくれるなら見逃すだろう。

 失敗が大きければ大きいほど。


 逆のようだがそうなる。

 自分の内心で処理しきれるなら、幾らでも向き合える。

 むしろ向き合いたがる。

 失敗から目をそらすヤツだと、自分では絶対認めたくないからだ。


 身もふたもない話だがなぁ。

 失敗を受け入れる俺は立派だと思いたがる、そんなタイプ。


 些細な失敗も他人のせいにするような人間。

 それこそ精神病質者サイコパスは呼ばれない。

 だが、失敗が処理許容量を超えそうなら……知らないフリをするだろう。

 第5のやらかしはいい例だろう。

 第5は精神病質者サイコパスの要素が、今までで一番強いヤツだったのだろうな。

 もしかしたら第5は本心から、自分が正しいと信じていたのかもしれんが。


 見たくない不都合な失敗は、教会が処理してくれる。

 ご丁寧に自分は望んでいないのに勝手にやった、と本人が言い訳できるように。

 表向き使徒は不機嫌になるだろうが、内心はほっとする。


 結果として、使徒と教会が共依存するシステムができ上がる

 ある意味で操りやすい転生者を握れば、全ての世界を自分の意図に添った形にできる。


 待てよ! 待てよ! 待てよ! あの最初に見せられた汚れたアクアリウム!。

 自分を信仰しないとか……意図にそぐわない魂は汚れていると認識している。


 心底ぞっとした。

 だが神の倫理は人間とは全く違う。

 力を使わせて浄化ってこれで説明がついてしまう。

 とんでもない掃除道具として選ばれたものだ。


 だとしたら、俺を呼んだのはとんだ手違いなんじゃないかね。

 もしくは、どうせ使うと思われているか。

 余計腹が立つ。

 絶対使ってやるもんか。


                  ◆◇◆◇◆


 おっと、思考がよそにそれた。

 ミルのケースを考え直そう……と思ったときに、すぐ目の前に喪女シルヴァーナの顔があってびっくりした。


「おっと、どうしました?」


 ムスっとした顔の喪女シルヴァーナ


「どうしました? じゃないわよ。

宿場町についたよって幾ら呼んでも、アル固まったまんまなんだもの」


 悔しいが反論できない。


「最初の出会った場所で解散しようって決めたのに、ずっとダンマリよ。

ホント……困ったものだわ。

一緒の時間は残り少ないのよ?」


 俺もヤキが回ったなぁ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る