第37話 パパラッチは概ね非モテ

 次の日、早めに起きてさっと着替えて準備をする。

 相部屋だから、ミルヴァの身支度する時間を確保するためだ。


 目が覚めたミルヴァは、ゆっくり上半身を起こす。


「あ~アルおはよう……」


 低血圧のようだ。

 眠そうにしていて、髪も跳ねまくっている。

 無防備にもそのまま起きて着替えようとした。

 俺は苦笑しつつ、それを制止する。


「おはようございます。

もうすぐ準備を終わらせて下に降ります。

着替えるのはちょっと待ってください」


 頭が回っていないのか、男と相部屋だった認識ができていないようだ。


「あ、そうだった……ありがと~」


 言うと同時に、布団をかぶって寝てしまった。

 精神的に相当疲れていたのだろう。

 できるだけ寝かせておこう。


 俺は一番乗り。

 その後で充血した目のヒドラ2体が、のそのそと降りてきた。

 長い時間聞き耳を立てていたのか……暇人だな。



 しばらくして最後に降りてきたミルヴァが、2人の様子を不審に思ったようだ。


「2人とも、どうしたの?」


 2人は慌て始めた。


「「い、いやなんでもない!」」


 男女の秘め事が起こると妄想した揚げ句、壁に聞き耳を立てて一晩起きていたのだろう。

 不毛すぎる。

 今までの意趣返しよろしく、無性に意地悪したくなった。


「長い時間……同じ姿勢で固まっていると体が痛くなりませんか?」


 面白いくらいビクっとする2人。

 ミルヴァは気が付いていないらしい。


「何の話?」


 俺は黙ってウインクした。

 次の宿の部屋についたら教える、その意図が通じたようだ。

 ミルヴァが黙ってうなずいた。


 それはそれでいい。

 先生に一応日程を確認しておくか。


「最後の使徒まであと少しですかね」


 先生がちょっと考える。


「あと3日程度だな」


 喪女シルヴァーナが少し寂しそうな顔になった。


「そこで解散かぁ。

寂しくなるわね」


 俺はあの衝撃を、過去に追いやりつつ遠い目をした。


「そうですね、最初はどうなることかと思いましたが……」


 ミルヴァもちょっと寂しそうだ。


「生きていればまた会えるよ」


 先生はこのシンミリした空気が苦手なのか頭をかく。


「坊主と俺はスカラ家に帰るが、2人はどうする?」


 喪女シルヴァーナがサバサバした表情になった。


「アタシはまた冒険家業に戻るわよ。

使徒さまに会えるとしたらそれが近道だし」


 相変わらずブレねぇな。

 ミルヴァは真顔になった。


「私はラヴェンナ地方に行くわ」


 先生が俺に目を向けた。


「坊主は家に戻ったら政務地獄か?」


「一応、プランはあるのです。

父上が許可してくれるか不明ですが」


 先生が人ごとのような顔で肩をすくめた。


「何を企んでいるのかしらんが、坊主のことだ。

うまいことやるのだろ」


 確かに、巡礼が終わればお役御免。

 先生はまたべつの家庭教師をやるつもりだろう。


「はてさて、どうなるやら。

一寸先は闇ですよ」


 先生、周りに女がいないとかなりマトモなのだがなぁ。

 ここまでキャラが崩れるとか、予想外だった。


 この先のことも考える。

 子供の頃に父の書庫にこもり、領地の地図を見ては将来をいろいろ空想していた。

 使徒の力という、危険な環境破壊兵器を使わないのは良い。

 神は力の乱用を期待している。

 その意志と異なる行動をすることになる。

 そうなると、使うように仕向けられる可能性も高い。

 これをどうしのぐか、結局悩みはつきない……。

 それだけじゃない。

 使わないだけではダメだ……とも痛感した。


 喪女シルヴァーナが俺とミルヴァを交互に見ていた。


「アンタたち付き合っているのに、あっさりそこで別れちゃうの?」


 予想外のところから矢が飛んできたな。

 付き合っているわけではないのだが……このパパラッチの追及は鋭いな。

 モテないぶん、人の恋話とか気になるのだろう。


「いえ、ミルヴァさんには目的があります。

それを先に済ませるのですよ。

終わってからなら、私と会うのは簡単ですからね」


 適当に答えておく。

 ラヴェンナ地方に行くと言っていたし。

 そのあとで再会するかは、まだ何とも言えないな。

 もう教会から追われることはないだろう。

 だが、わざわざ人前に出てくるのかは分からない。


 ミルヴァは俺にほほ笑んできた。


「ええ。

終わったらまた会うことになっているのよ」


 適当に話を合わせてくれる。


「はぁ~良いわねぇ。

アタシの目の前に、運命の使徒さまが飛び降りてこないかなぁ…」


 喪女シルヴァーナがため息をつきつつ、ブレない愚痴をこぼす。

 残念、その使徒は出てこないのさ。

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