第35話 加算ではなく乗算式

 さしたる問題もなく、最後の巡礼地に向かう馬車の中にいた。

 時期は夏、日差しも強い。

 喪女シルヴァーナがない胸元をパタパタさせている。


「ん~熱いからこの服は良いんだけどさ、日焼けで跡がつくのがねー」


 先生が鼻で笑う。


「前の痴女スタイルでも跡がつくだろ。」


「痴女言うな! 過去は忘れなさい! 約束された永遠の童貞!」


「余計なお世話だ! 蜃気楼を追う恋愛飢餓者め!」


 また始まった……しかし日焼けねぇ。

 考えることも行き詰まっていたので、休憩がてらミルヴァに話題を振ってみよう。


「ミルヴァさんは日焼けで悩んだりします?」


「ずっと森にいたから縁がなかったわよ。

エルフは日焼けしやすいって聞いたから、注意してるわよ


「それでしたら、馬車では日の当たらない所にいてください。」


 ミルヴァがほほ笑んだ。


「ありがとう。」


 不穏な気配を感じると

 2体のヒドラが俺たちを見て、不気味に笑っていた。

 げ、増えた。

 擬音でゲヒゲヒと聞こえそうな感じで先生が笑っている。


「いやぁ……お熱いですなぁ……。

良いですなぁ……」


 喪女シルヴァーナが体をクネクネさせながら、鼻息を荒くしている。


「いつの間にか…デキていたのよねー。

アタシたちの目を盗んでこっそりデートしているからね、もうキャー!」


「ほほう! 坊主も隅に置けないなぁ。

道中で子供なんてつくるなよぉぉ!」


「そして……巡礼中に生まれる子供。

育てる決意をする2人……キャー!!!!」


 ヤバい……暴走を始めた。

 恋愛経験0が2人。

 経験0だからか、人並み以上に興味がある。

 こんなのを混ぜるとウザさが2乗になる。


 加算ではなく乗算式なのだ。


 その笑いを見たミルヴァがげっそりした顔をしている。

 つまり宿でも2人部屋になると、ずっとこの攻撃が続いているわけか。

 どおりで宿では個室を必死に要望するわけか。


 だが、その程度でこの喪女シルヴァーナは止まらない。


「個室ってことはこっそり逢瀬! キャーーーー!」


 これを宿の受付で、実際にやられたときの気まずさといったら……。

 先生はスケベな笑いをしており、ミルヴァは気の毒なくらい真っ赤になっていた。


 どっちに行っても逃げられない。

 とある意味黒歴史に思いをはせていると、ちょっと気になったことがあった。



「日焼けってシミとかもできるのですよね?」


 喪女シルヴァーナがビックリして固まる。


「そ、そうよ。

アルどうしたのよ……急に真顔になって。

そりゃできるわよ。

女性冒険者にとっては永遠の悩みよ」


 日焼けって紫外線だよな。

 この世界にも当然太陽がある。

 確か、紫外線が強いと……皮膚癌とかになったかな。

 事象がアレに合致しないか?

 紫外線そのものでないが、準ずるものだとしたら。


 俺は背筋が寒くなった。

 紫外線が強くなる。特定の範囲。


 オゾン層みたいなものがあってそれが壊れたとしら?

 いや……滞留している魔力そのものが、紫外線モドキをカットしていたら?

 使徒の桁違いな魔力で、魔法を集中して使ったらその地域の魔力が枯渇する。

 体内から膨大な魔力を出すと、外界から吸い寄せられる力も同等だ。

 魔力の自然回復量をしのぐ消費量になるだろう。

 結果的に紫外線への防御が弱くなる? 飛躍しすぎだろ。


 いやいや、ぴったり合致しそうだ。

 だが簡単に結論を出して良いのか? 事実だとしたら歩く環境破壊兵器じゃねぇか。


 勘弁してくれよ。


 日をまたいで冷静に考えて、結論を出すか。

 1人で考えすぎると迷宮に迷いそうだ……。


 こんな話を相談できるのは、キアラかミルヴァしかいない。

 ボッチどもにマークされている状態で2人きりになったら、ミルヴァへの攻撃がさらに激しくなる。

 ちらっとミルヴァを見るとなんか目が合った。


 ミルヴァは黙ってうなずいた。


 何か話があるのかな。

 しかし余計ヤバイことになりそうだが……。

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