第25話 俺の常識、世間の非常識

 いやぁ親の七光って前世のときは馬鹿にしていたが、いざ使ってみるととても便利。


 しかも、この名前のおかげで取得が困難な信用を簡単に得られる。

 ありがとう、ありがとうパパン。

 神が送ったとしても、ここはパパンに感謝する。

 俺の中で神への評価は何か怪しいヤツだったしな。


                  ◆◇◆◇◆


 応接室に俺、先生、喪女シルヴァーナ、ミルヴァが通された。


「お部屋の準備をいたしますので、しばしお待ちください」


 そう言って使用人が出ていった後、喪女シルヴァーナが俺に詰め寄る。


「アル! 息子を人前でボコって、その親の家に行くって不用心すぎでしょ!」


 精神的にはボコったけど、物理的にはボコってないぞ。

 ミルヴァも説明して欲しそうな目で俺を見ている。


「いえね、貴族とはメンツと言われる虚構で商売をするのですよ」


「だーかーらー! そのメンツってのを、アルがつぶしたんでしょうに!」


「息子の不始末を放置する方が大変ですよ」


 喪女シルヴァーナがジタバタしている。


「アレが手遅れになるまで放置されていたから、あんな馬鹿なことをしているんでしょ!」


「いえ、あれは多分突発的ですよ。

普段から馬鹿でやらかしそうでしたが、今回は暴走でしょう」


 そうでないとこんなに早く親が出てこないっての。

 1から10まで説明せんといかんのか……マンドクセ。

 ため息をつきつつ説明を続ける。


「まだ、穏便に片付けた方がダメージは少ないのですよ。

ここでさらに何かしたら一族の首が物理的に離れますよ」


 俺はヤレヤレといった感じで肩をすくめる。


「そして、ここは使徒巡礼地ですよ。

粗相を放置したら噂はものすごい速さで広がりますよ。

しかも騎士団の信用も落ちます」


 喪女シルヴァーナは訳が分からないって顔をしている。


「ここって貴族が治めているんでしょ。

騎士団は無関係じゃん」


 先生が真面目な顔になった。


「あーいや、騎士団は巡礼地と道の安全を保障しているんだよ。

事件がおこってうやむやなんて大問題だ。

しかも問題を起こしたのが使徒の子孫だときた日にはな。

最悪、使徒の子孫の領地を騎士団が没収して別の僻地に移すなんて有り得る」


 先生がゴミをポイ捨てするジェスチャーをした。

 喪女シルヴァーナが信じられないといった顔をしていた。


「そんなことできるの?」


 俺も補足する。


「拠点は巡礼地で騎士団が所有しています。

子孫がそこにいれば価値が上がるから任せているだけですよ」


 先生がニヤリと笑う。


「よく分かっているな、坊主」


「息子の不始末で領地没収となれば、メンツなんてなくなります。

親が自分で事件を片付ければ、最悪は身内の不始末で致命傷は避けられます」


 喪女シルヴァーナはまだ理解してないらしい。


「あの馬鹿が手を回して報復とかしないの? そいつの家でしょ?」


「当主が客人を招いたら、客人の安全は当主の責任ですよ。

それにこの家で一番偉いのは誰です?」


「うーん……アタシは魔法なら分かるけどさ、その辺りはよく分からないわ」


 分からないで止めるなら聞くなよ。

 でも暴発せずに我慢してくれていたから大目に見てやろう。


「それはそれとシルヴァーナさん。

あのドラ息子に魔法で先制せずに堪えてくれて助かりましたよ」


 喪女シルヴァーナは何のことが分からない顔をした。


「えっ?」


 俺、思わず聞いてしまう。


「えっ?」


 喪女シルヴァーナが慌てて両手で否定のポーズ。


「いやいや! あんなのでも使徒さまの子孫よ! 手を出すとか考えたこともないわよっ!!!」


「えっ?」


「いや……アル、使徒さまの子孫に手を出すのは駄目って聞いてない?」


「そんな常識……有るのか?」


 やば、つい口調が……。

 先生はあきれ顔だった。


「明文化はされてないが……暗黙でそうなっているぞ」


 うそーーーん。


「えーっと……つまり、私のやったことって…」


「「普通ない」」


 ヒドラ2人がハモりやがった。


「いや、おかしいでしょ。

どんなに偉いヤツでも、あんなことをしたら駄目って常識ですよね」


「「いや、非常識だ」」


 笑いを堪えながらミルヴァが俺を見た。


「そんな中で助けていただいたのです。

本当にありがとう御座いました」


 先生が苦笑する。


「やったことは間違ってないさ。

大体は使徒の子孫の身内が不始末をしでかしたら、当主が始末をつけるのさ」


 喪女シルヴァーナがあれって顔をする。


「当主が不始末をしでかしたらどうするのよ」


 先生が平然とした顔に戻る。


「その場合は騎士団が処理する」


 もう嫌だこの世界。

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