第18話 世界は広い、世間は狭い
おかしいよな……俺は巡礼で世界の知識を仕入れるはずなのだよ。
ところがどうだ……現実は変態と喪女に囲まれて平家物語が頭で流れる。
訳が分からないだろう。
俺でも分からない。
畜生、源氏物語にすれば良かったか。
駄目、駄目だ。
あれは長すぎて暗記無理無理。
現実逃避をする俺は馬車の中。
「アル~服のお礼何が良い? できることなら何でも聞いてあげるわよ」
おまえはなにがしたいのだ。
「アタシは駄目よ! 使徒さまって処女でないと駄目だし。
恋人がいても駄目。
昔の恋人がいても生きていたら駄目なのよー」
いや、おまえが1番いらん。
しかしすごい新品思考だ。
それを呆れたように見ていた先生が突然笑いだした。
「いや生きていてもいいぞ。
昔の恋人に虐待されていたならOKだから」
実にロクでもない話だ。
あれだな……恋愛ゲームでヒロインの基本条件のようだ。
攻略中に非処女なのが分かったらディスクを割ってSNSにUPする。
使徒ってそんなタイプなのか。
体はともかく聞きたいことがあった。
「ならシルヴァーナさん。
魔法について教えてもらえませんか?」
「魔法を使いたいの?」
「いえ、基礎理論です」
突如、
「ああ……でもアタシの先生ってさぁ……。
『ボワーっと炎の呪文を唱えてですね!
グワーっと中から炎が出るようにイメージして!
ビャーっと腕を伝わって!
ドカーンと爆発するように強く念じるのです!』
って言うのよ!」
ブボッッッッッッッッッ!
吹き出してしまった。
「ああ、アルも変だと思うでしょ。
おかげでアタシも独学でいろいろ補足しないといけなかったのよねぇ。
確かにその人天才って言われていたんだけどさぁ」
以前、世界は広い……と言った。
言い直そう。
世界は広い……世間は狭い。
気を取り直す。
「聞きたいのは魔力についてです」
「魔力? 魔力の何を聞きたいの?」
「大気中にある自然魔力は、どこから生み出されているのでしょうか?」
それを見た先生が笑いだした。
「坊主の知りたがりが始まった。
覚悟しておけよ」
「い、一体何を覚悟するのよ」
先生がニヤニヤしている。
「いいか、吸血鬼は相手が干からびるまで血を吸うだろ」
「そこまで行かなくても血を吸うわね」
先生のニヤニヤが増した。
「こいつは人の知識を吸うのさ。
一度食いついたら、相手の知識の精髄を吸いつくすまでかみついて離れない」
ひどい例えだ。
探求心が盛んと言ってくれよ。
「はぁ~、まあ体を要求されるよりは良いけどさ。
それは誰も解明してないのよね」
「地域によって差はないのですか?」
「ああ、強い場所と弱い場所はあるわね。
分かっているのはそこまでよ」
「法則性は分かってないのですね」
ふーむ、やはり地域で差があるのか。
違う角度から話を聞けば何か情報が得られるかな
「ある時期に強かったけど弱くなった。
逆とかあります?」
あくびをしながら
「そんな話は聞いたことがないわねぇ」
この謎の面白さが分からないとは。
ニヤニヤ笑いをしていた先生が、腕組みをする。
何か心当たりがあるのかな。
「なくはないぞ。
ただ、はっきりとした理由は分からないがな」
「まず現象をそろえてから、法則性を探るので教えてください」
先生が重々しくうなずいた。
「うむ、実は使徒の根拠地がそうなんだ」
初耳だって顔の
「何それ聞いたこともないわよ」
「聞いてないからだろう。
でもそれなりに有名だぞ」
有名だけど、自然魔力が関係すると思われないのか?
「そもそも、使徒ってとんでもない魔力で魔法を使っているんですよね。
使徒が使い果たしたと思われないのですか?」
先生が静かに首を振った。
「ああ、それとは無関係とみなされている。
使徒の力は死ぬまでそう衰えなかったからな。
自然魔力が枯渇したら使徒が魔法を使えなくなる。
自然魔力が枯渇するのは使徒没後だな。
その地域では魔法が使えなくなる。
専ら使徒や教会の教えを守らないから、自然魔力がなくなったと言われている」
そんな話があるかよ。
自然魔力は配給制ではない。
自然にあるものだ。
その出所が知りたかったのだが……。
とはいえ否定するにもまだ情報が不足している。
「老童貞、アルが固まってしまったわよ」
「変な呼び方をするな! 平原女!
坊主が思考モードに入っただけだから放っておけ。
終わるまで何も反応しなくなる」
「へ、平原って何よ! せめて丘陵って言いなさいよ!」
ここでも始めるのか……勘弁してくれ。
ヤバい、思考と平家物語が混じってきた……。
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