第16話 閑話 キアラ・デッラ・スカラ 4

 兄が16歳のとき、突然高熱で倒れた。

 すごく心配だったが、周りの心配は全く別のものだった。


「もしかして、アルフレードは使徒さまになるのか?」


 などと期待しながら両親が話しているのを聞くと無性に腹がたつ。

 苦しんでいる兄をどうして心配しないのか?

 でもこの怒りをぶつけてもどうしようもない。

 自分のできることをする。


 可能なかぎり兄のそばにいて看病する。


「もし風邪だったら、おまえまで病気になる」


 そう父に止められたがこれだけは譲れなかった。

 父は根負けして渋々認めてくれたが、そんなことは気にならなかった。

 高熱でうなっている兄を見ると、とてもつらくなる。


 兄が目を覚ましたときに、髪がボサボサだったりすると心配をかけてしまう。 

 それは嫌だったので、容体も安定した2日目の夜にお風呂に入ることにした。

 兄の様子が気になって仕方なかったから、早めに切り上げて戻る。

 兄の熱を測ると落ち着いたようだ。

 ほっと胸をなでおろす。


                  ◆◇◆◇◆


 1時間ほどたっただろうか、兄が目を覚ました。


「おはよう、キアラ」


 その後はバタバタと慌ただしくなった。

 家族を呼んで、メイドに軽食を頼んで兄のところに戻る

 家族たちがいろいろと話をしていた。


 病み上がりなのだから安静にした方が良いのに。

 そうは思うが皆浮き足立って、平然としているのは兄だけだった。

 むしろ、すごく面倒くさそうにしていた。

 そうだった……兄は使徒に関しては無関心だった。


 そう思っていると、使徒巡礼の話が出た。


「お兄さまが行かれるなら、ぜひ私も御一緒したいです」


 思わず口に出してしまったが、当然ながら却下された。

 兄と一緒にいたかったのは確かだが、どうしてもやりたいことがあった。

 でも、許されなかった。


 兄に私のお願いを託そう。

 兄なら私の思いをちゃんとくみ取ってくれる、そう確信していた。


                  ◆◇◆◇◆


 そこから使徒認定試験まで、兄に張り付いたのだがちょっと変化があった。

 突然口調を変えたのだ。

 僕から私に。

 理由を聞いて皆納得していたが、どうしてもそれだけとは思えなかった。


 兄と話していて、言葉にはしにくいけれど……何か慎重になっている。

 もともと思慮深かったのが、さらに深いところに思考を巡らせているように感じた。

 子供っぽさに隠れていた兄の性格が、色濃く表に出てきたように思える。

 別人とまでは言わないが、子供を演じていた大人が子供の演技をやめた。

 それに近いような印象を受けた。

 やっぱり転生者なのね。

 でもどこの誰だったのだろう……。


                  ◆◇◆◇◆


 そして、使徒認定試験の日を迎えた。

 私は兄が使徒ではないと確信はしていた

 合と出るかもと期待している皆を見ていると、ちょっとおかしく思えてきた。

 青い炎を出したときはちょっと驚いた、でもそれだけだった。

 早くこの茶番を終わらせてほしい。

 どうしても話をしたいことがある。

 そう思って兄を見ていた。


                  ◆◇◆◇◆


 剣技のとき、兄が何かに気が付いて急に転んだ気がした。


「お兄さま、大丈夫ですか!?」


 とっさに走りだして、泥と鼻血にまみれた顔を拭ってあげた。

 周りはガッカリよりも突然のハプニングに、笑いを堪えるのに精一杯のようだった。


 兄は失格だと分かって皆のショックを和らげるために、故意に転んだと一瞬思った。

 ちょっと違うような気がする。


                  ◆◇◆◇◆


 兄に話したいことがあるので、使用人たちに目で合図して先に帰ってもらう。

 言おうと決めたけれども……どこかで恐怖があるのか言葉が出てこない。

 そんな私を兄は昔と変わらず優しく見ていてくれる。


「後でお部屋に行っても良いですか?」


「構わないよ」


 と言ったそばから鼻血が。


 御免なさい! 兄さん無理です、限界です、それは反則です。

 たまらずに吹き出してしまった。

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