第3話 その世界にはその世界の合理がある

 記憶喪失者の記憶が戻るパターン。


 頭部への打撲、高熱を出した後など様々有る。

 俺の場合は見事に高熱+頭痛。

 これが痛い痛い。

 体を横にすれば、動かして下にした部分が痛くなる。

 まるで拷問。


 これ、あいつの嫌がらせなのか。

 ちょっとだけ、心当たりは有る……。


 何とか心を無にして寝ようにも、転生前の記憶が雪崩のように押し寄せてくる。

 これが頭痛の原因のような気がする。

 頭痛地獄の中、転生前の記憶とこちらの記憶のすり合わせをすると頭痛が軽減されるのが分かった。


 何かに集中すると痛みをごまかせる話があったな。

 これ、嫌でもすり合わせしない駄目だ。



 こちらの世界の俺は16歳の男で貴族の三男だ。


名前は…アルフレード・デッラ・スカラ。

家族構成は…パパンはフェルディナンド40歳

      ママンはアレッサンドラ35歳

      22歳の双子の兄アミルカレ、バルダッサーレ

      14歳の妹キアラ


 ママンのアレッサンドラは後妻で、兄とは腹違いの兄弟。

 13歳で出産ではない…断じて。


 お父さんやら、父とか呼ぶのはちょっと恥ずかしい。

 茶化してパパンとママンと呼んでしまう。

 やっぱり俺は捻くれ者だ。


社会は予想通り、封建制。

人名はイタリア系のようだ。


 デッラ・スカラ家はランゴバルド王家の中で、大貴族として遇されている。

 その大貴族の中でも、序列2位になるほどの大勢力だ。


 あのポンコツ神(多分神なのだろう)ちゃんと良い所に落としてくれたな。


 それよりも引っかかったことが有る。

 転生前の記憶が戻るまでは、何も疑問に思わなかった世界の常識が異様に思えたことだ。


 何より、初めに恐ろしさを感じた点が有る。

 人間を含めて生物はその地域や環境に適応する。

 適応できなければ死に絶える。

 この世界は した世界だ。

 奇跡は起こらない前提だと話のネタや絶望したときの気休め程度にしかならない。


 だが、それが と分かっていたら?


 当然期待して徹底的に利用しようとする。

 それがこの世界の合理だ。


 さらにヤバいと思ったのが世界の年号だ。

 異世界転生してきたヤツは神が地上を救うために遣わした使徒であると思われている。

 教会がそう宣伝しているのだが、あながち間違ってはいないのだろう。

 俺を転生させたヤツを神だと仮定する。

 ソイツが教会の信仰している神と同じと考えても差し支えないだろう。


 年号は使徒が教会から認定を受けた年を使徒1年とする。

 何人もいたから、正しくは第1使徒1年から始まって、次の使徒が認定されたら第2使徒1年となる。

 ちなみに第1使徒1年より前は前使徒1年からさかのぼってく。

 転生前の紀元前(Before Christ)と同じ使い方となる。

 今は第6使徒154年だ。


 さらにこの使徒の区切りは大体150年で切り替わっている。


 つまり150年前後に生まれた子は、 使? と期待されるのだ。

 情報伝達の方法が未発達な世界でも、すべての人間に使徒の誕生を認識させるように自然に情報統制されている。

 ここまで情報統制されると、無意識でも皆周囲の変化に敏感になる。

 さらに、使徒判定方法が教会の教えとしてすべての人間に伝えられている。

 物質的に御利益がはっきり見えるものだから、ただの宗教の教えと違う。

 オーバーテクノロジーをポンポン出して身近な人間の生活を豊かにしてくれる。


 一言で言えば だ。


 判定方法はわりと単純。

 生まれた直後から成人するまでに異世界の知識を持ってるか、規格外の能力を発揮する。

 生まれた直後に力を発揮しなくても、頭を強く打ったり、高熱を発した後に性格が変わったり力に目覚めるのも有名。

 欲に目がくらんで故意に頭を板などで殴る親もいたらしい。(もし使徒だったら仕返しをされると考えなかったらしい)

 世界は変われども人間の欲は不変だ。


 ステキナセカイダナー。


 安心するような情けないような。

 他にも特殊な方法が有るらしいが、それは一般には知られていないらしい。

 疑惑が有るときの追加の確認方法で極秘扱いのようだ。


 知られたら教会の連中が来て、認定試験をさせられる。

 認定されると接待攻撃をされ、しがらみで雁字搦めにされる。

 生誕地や親族は教会から手厚い保護を受けられるなど御利益たんまりだから、真剣に使徒を探す。


 もしかして濁った世界は多数の意識がこんなに寄生根性丸出しだから汚く見えるのだろうか。

 だが、それだと浄化と認識が合わない……後々ゆっくり考えよう。


 ここまで周到に御利益をしゃぶり尽くそうとする世界だ。

 もっと状況を確認しないと、とんでもない目に会いかねない。

 フリーハンドを確保したい。

 最悪の場合は問題ないと判断してから認定されてもいいだろう。

 面白いことに、今までの使徒は全員が隠そうとはしなかったらしい。


 やっと、痛みも引いてきて眠れそうだ…。


 まず、最初のミッションは力を持って転生したことが発覚しないように隠すことだ。

 目立ちまくって利用されるなど冗談ではない。

 記憶が混ざったせいで(使徒の力に目覚めると言われてはいるが実態は記憶混合だろう)起こると言われる人格の変化をどうごまかすか。

 悩んだら頭がまた痛くなってきた……。

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