第2話 ドラマの見過ぎで騙されないように契約書は細かく見るタイプ

 なろう転生テンプレが、コイツの選択肢に適正なことを納得はしないが理解はした。


「で、俺を転生させて具体的に何をさせたいんだ?」


 もっと細かく聞くべきなの確かだ。

 だが自己嫌悪に陥った挙げ句に、寝覚めの気分が最悪なのは嫌だ。

 起きて覚えていればの話ではある。


『定めはない。

汝の思うように生きれば良い』


 どうにも話がうま過ぎる気がする。


「どうせチート能力をもらって好き勝手できるのだろうが、それで大量虐殺みたいなことをしても良いのか?」


 このようなときは極論をぶつけて、相手の意図を探ってみる。

 さて、どう答えるか俺の想像力……多分……想像力だと思う。


『魂の欠けたものは掬い上げない。

故に汝はそのようなことは起こさない』


 精神病質者サイコパスは魂が欠けて見えるのか。

 自分では結構危険なヤツだと自覚している。

 本心では自分をそう思ってないのか……なんだかモヤモヤする。

 今は酷くはなくても、未来など約束はされてはいない。


「転生してロクでもない環境に育って、立派な精神病質者サイコパスになって虐殺するかもよ」


『そのような環境には降ろさない。

己の力で歩きだすときには、不幸を避けるだけの力を使える。

故にならない』


 保証期間までついてやがる。


「つまり、俺の思い通りに生きて良いわけだ」


『然り』


 どんな世界で、どう変えてほしいかが全く見えない。

 好き勝手暴れて世界が良くなるなど信じられない。


 成果物は事前に確認しないと後でやり直す羽目になったりする。

 うっ頭痛が……体が有る認識はないけれど。


 使うだけとは抽象的過ぎる。

 そんなもので世の中良くなるイメージが全く湧かない。


「今、世界はアンタからどう見えているんだ?」


 俺の言葉とともに何かイメージが流れ込んできた。

 その見た目はメンテナンスを怠って汚れまくったアクアリウムのようだ。

 水の透明度が低くて何かが動いているようだが詳細が見えない。


「き、汚ねぇ……」


 思わず声に出た。

 マメにメンテナンスしろよと突っ込みたくなる。

 そして、掬い上げると言っていたのが比喩じゃないと思える。

 神には掃除という概念はないのか。


 確かどこかの宗教の神は、地上が汚れ過ぎたら大洪水でクリーニングしていたな。

 どこの神も掃除はアバウトなのか。

 細かく見る神も違和感満載だが。


『汝が力を揮うことによって、世の流れは攪拌し……浄化される』


「混ぜるだけで浄化されないだろ……」


 コイツは大丈夫なのか?

 箱舟を作れと言われるよりはマシだけど。


『汝の力は攪拌と浄化が兼ねられている』


 最初にちゃんと言え。

 俺はアクアリウムの掃除に入れられるヤマトヌマエビか?


 カミサマチャンネルと称して、動画投稿サイトで他の神様にも見せる娯楽だったらいや過ぎる。

 異世界の魂を入れて60年経過しました。

 果たして綺麗になったでしょうかみたいな番組だ。


『汝は今までで最も子細に拘る魂であった、では転生の希望を述べよ』


 いやいや、今までのヤツが素直に話受け入れ過ぎだ。

 そんなようだから日本人は騙されやすいのだ。

 そして、さすがに嫌気がさしたのか俺をさっさと降ろしたいらしい。


「いや、まだだ。

仮に俺がアンタの希望に添わなかった場合、別の魂を掬い上げなおして降ろすのか?

それは可能なのか?」


 本当にコイツの希望に添ったようになるのか。

 この時点の意識のズレからして怪しい。

 コイツはダメだから、別のヤツを降ろして俺を抹殺する。

 そんな可能性が有るなら抵抗する手段を考えねばならない。


 神様は気軽にお気に入り以外の人を殺す。

 殺すのか片付けているのかは分からない。


 勝手に連れてきて逃げ道がない状態に置かれれば疑いたくもなる。

 しかし、夢だとしてもここまで疑うなど、俺は筋金入りで手遅れのような気がする。


『能う。

汝の寿命が尽きる前に新たに掬い上げた場合、その力は半分にも満たぬであろう。

故に汝に期待する。

もう良いか?』



 さすがに、これ以上聞くと問答無用に降ろされかねない。 

 次の条件の話をするか…。


「ではご希望にお答えして、転生の条件って何だ?」


『性別、大まかな出自、そして記憶とともに力に目覚める年齢だ』


 降ろすだけにしても融通は利くのか。


「大まかな出自とは具体的に何だ?」


『裕福な家、権力を持つ家のような大まかな指定だ。

先ほど汝も言ったとおり魂の欠損をもたらすような環境には降ろさない。』


 先天的に欠けるのもいれば、後天的にも欠けることが有るのか。

 ということは、後天的には復元することは有るのだろうか。

 それは俺に関係ないか。


「性別はこのまま男。

王家はその後が面倒だからな、程よく権力も有って金銭もそれなりに困らないところ。

貴族の三男とか四男あたりが良いだろう」


 転生するのが分かっているなら苦労なんぞしたくない。

 馬鹿な貴族のボンボンポジションが良い。

 ただでさえ怪しい任務を受けているのだ、余計な障害は増やしたくない。


「生まれた直後に力に目覚めるって。

そんなのアリなのか?

脳が育つ前に記憶を持って認識できたりとかって何か変でね?」


 今まで異世界転生ものを見ての疑問だった。

 赤ん坊で昔の記憶を持って意識まで有るのは変ではないか。


『通常ではあり得ない力を与えることで、力が体の育っていない部分を補うのだ』


「生まれてすぐはパス。

思っても行動に不自由が有るとストレスの元だ。

だから目覚めてその力とやらが未発達分を補わない年齢で」


 中身はオッサンなのに母乳が主食などとはアブノーマルなプレイ過ぎる。

 離乳食なんてあじけない。

 とにかく、そこらは無意識でやり過ごしたい。


『では良いか』


「待った……後チョットだけ」


 俺……結構しつこい。


「これから行く世界にはレベルやステータスが有るのか?」


『汝が望むのであれば』


「いや、そんなものは不要だ。

数値なんぞで評価確定されてたまるか。

それが楽しいのはゲームだけだ」


 レベルやステータスをチェックして、絶対安全を確認してドヤ顔で俺TUEEEとか自分がやるなら絶対いやだ。


「ジョブなんて当然なしで」


『汝、子細に過ぎる』


 そろそろ限界か。


 微かな苛立ちのようなものが感じられる。

 契約書はちゃんと読もう、こっそり罠が有ったらいや過ぎる。

 俺、ドラマの見過ぎかな。

 夢でないならこれがドラマみたいなものだが、用心するに越したことはない。


「いきなり話が通じるくらいだ。

前のヤツらはレベルだのステータスだのって使っていたんだろ。

俺が転生したときに突然使えなくなったりして大丈夫なのか?」


『見えていたのは降ろした者だけだ。

他の者は認知すらしない』


 それなら一安心、急になくなって騒動になっても面倒だ。

 俺が生まれた日に急になくなったら、悪魔の子だとか因縁をつけられても困る。

 降りる文明のレベルは不明だがどうせ、テンプレの中世ナーロッパなのだろう。

 確実に貴族階級が有る。


 つまり迷信が幅を利かせている可能性大だ。

 既に有ったものを突然なかったことにして、誰も疑問を持たないようにする力をコイツが持っているとも思えない。

 物理的に干渉が不可能なので、既に有った書物までは書き換えられないだろう。


 最後にどうでも良い質問をする。


「これが最後、アンタの姿が見えないのはどうしてだ?」


『汝の認知する神の存在を反映しておる。

では、好きに生きるが良い』


 俺が特定のイメージを持たないからか……と思ったら急に意識が遠くなっていく

 微かに残る意識で思った

 痺れを切らしたな、アイツ。

 そしてどんな力かの説明がなかったぞ……。


 あ、俺が聞いてないだけか。

 どんなに注意しても一発勝負だと何かを見落とす。

 ま、人間はそんなもんか。

 それを16歳の頃にバッチリ思い出し、本当に俺は死んだのだと理解したのであった。


 しまった、こんなことが分かっていたらHDDの中消しておくのだった……。

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