転生したけどチート能力を使わないで生きてみる
大邦 将人
第1章 いきなり死んだといわれてから
第1話 どうやら死んだらしい
ふと目が覚めた。
浅い夢を見ているような感覚に近い。
だが、夢ならイメージの川がゆっくり流れ続ける。
しかしどうにも違う。
ただ、ぼんやりとそこにいる感じだ。
新手の夢か? 目覚めたら忘れている深い夢なのかは分からない。
そして何かが存在している、これまたぼんやりと感じる。
それが語りかけてきているような気がする。
言葉のような明解なものではない。
自分の頭の中で自問自答しているような感覚だ。
『招かれし者よ。
汝は死して、魂のみがここに在る』
突拍子もないことを言われている、だが考えようにも意識が定まらない。
あちらにフラフラいったら、こちらにフラフラといった感じで聞き返すこともままならない。
しばらくするとようやく意識がハッキリしてくる。
語りかけてきたものはそこにいるだけで、何も言ってこない。
意識がハッキリしてくると、ようやく聞き返すことができた。
「死んだだと?」
『然り』
「死因は何だ?」
『魂が剝がれた因果は分からぬ』
「理由は分からないが死んだのは分かるって、死体でも見たのか」
そう聞き返しつつも下らない問答だとは思う。
だが立ち去ろうにも体の感覚が全くない。
つまりは問答を続けるしかない。
そのうち意識がなくなるか目が覚めるだろう。
『ここは汝が肉体に魂がついていた世界とは異なる。
剝がれた魂を掬い上げることはできるが、
なぜ剝がれたかまでは知ることができぬ』
おいおい、夢で異世界転生か。
軽くは知っているが、夢にでるほど読んだ記憶はない。
「何で俺の魂とやらを引っ張ってきた?」
『我が世界の調整に必要故に』
ベタな話だな、夢は自分の想像以上のものは出せないだろ。
自分の想像力のなさにため息をつきたくなりながらも、自分の想像力にいろいろ聞いてみるしかない。
「異世界の魂が何で調整に必要なのだ?」
『我が世界を巡る魂から産まれた者は、摂理に定められた力までしか引き出せない。
異界の魂から産まれしものは違う』
「外部から魂を持ってこないと、世界がおかしくなるのか?
しかも、異界の魂でないと調整ができない世界は欠陥品ではないのか?」
微妙に残念な世界の話になっているような気がする。
そもそも自己完結してない世界などとはおかしくないか?
『それが我の世界、異界からの力を定期的に借りることが正しい在り方也』
異世界転生前提の世界だと?
御都合主義が過ぎるだろう。
しかも、定期的などといった。
創造神ならとんでもないポンコツだ。
「そんな世界を作ったのか?」
呆れた感じがでるのはどうしても否めない。
起きているときには感情をごまかして会話ができる。
夢の中ではそれができないらしく、感情がそのままでてくる。
『我は創造神に非ず、世の作り主は既にいない』
「創造神でないから、その仕組みを治せないのか?」
『我の成せることは、世への意識の関わりを変えるのみ。
産まれる魂に手を加えること、異界の魂を掬い上げるのみ』
「なら面倒だから他の魂を掬い上げて、俺を戻してくれ。
どうにも話が胡散臭い。
承諾すると良くないことが起きる気がする」
夢なら、そのまま異世界ヒャッホーと好き勝手するのもありだ。
だが、怪しいし欠陥品のメンテナンス要員なのが気に食わない。
『重たい魂を掬い上げるのは相応の力が必要、やり直すのは猶予がない。
そして、掬い上げるのみ可能』
こいつ、無責任な発言しやがった。
「嫌だと言ったら?」
『環から外れた魂はいずれ消えるのみ、ここに留まり続けるのみ』
脅しまでセットです、本当にありがとう御座いました。
ちょっと一発殴ってやりたいが存在が見えない。
自分に体がある感覚まで御丁寧にない。
この夢が自分の想像力の結果なら実に腹立たしい。
俺の性格ちょっと悪過ぎだろう。
仕方ないが、どうにも納得がいかない。
なろうレビュワーのようにトコトン疑問をぶつけてやることにした。
「何で日本人の俺なのかね。
何度もやっているならどうせ全員、日本人で独り者なんだろ?」
『日本人なる意味は知らぬが、汝の魂の漂う先が異界の神との結合が薄い。
ゆえに異界の神の影響を受けずに世の調整ができる。
今まで掬い上げた魂の色はほぼ同じであった。
独り者とは元の世にしがみつく意識が弱いが故に掬い上げやすい』
人種か思考パターンなどで魂に色がついていて、こいつからはそれが見えるのか。
挙げ句、既婚者とか子供がいると未練が増えて掬い上げにくいと。
「結婚生活が破綻しているとか、かえって未練がないヤツも結構いるんでないかね」
『関わりが多いとその者自体はしがみつかなくても、他の魂が絡まって掬い上げ難し』
結婚生活は牢獄という人がいたが、ついでに鎖までついているのか。
さっきから表現が掬い上げると言って、金魚掬いみたいで不愉快だ。
実情は釣りに近いと思える。
そして神との結合はある程度予測はつくが……確認するか。
「神の結合が濃いのを掬い上げると、どうなるんだ?」
『異界の神の摂理は我の世界に合わぬ。
魂の結合が強いと我が世界に異界の神の力が及ぶ。
そして異界の神との争いが起こる』
信心深いと元の神様の力がこちらに及ぶのは面倒だな。
「信心が薄いのが良いのは分かったが、それなら日本人でなくても良いだろうに」
『利得に流されやすし薄い魂は我が世を荒らすのみ。
共に和す柔軟な魂が世の補修に望ましい』
建前でも自分の利益最優先でなくて、和を重視する日本人が適切と見ているのか。
ブラックバスのような外来種を放流した結果、荒らされたくはないようだ。
色だの薄いだの柔軟などの表現が気に入らない。
こいつには、人の魂は色付きのスライムみたいな魚にでも見えているのか。
釣りにしても不愉快だが。
「他の民族でも十分に条件を満たしているヤツはいるだろう」
『漂う魂は同種のものが集まりやすい。
個別に狙って掬い上げることは可能ではあるが、その場合は魂の力が弱い』
なるほど、決まった魚を釣りたきゃその魚が多いところを狙うわな……。
そして狙いを細かく定めると、大物を釣る難易度が上がる。
まるでゲームだ。
俺のゲーム脳ここに極まる。
しかし、俺の魂ってそんなに重たいのか? 実感は全くない。
単に自分をそう思いたがっているだけなのか。
そしてまだ目が覚めないのか……。
いい加減目が覚めてほしい。
自己嫌悪ゲージがMAXになるまえに終わってほしい。
しかし、本当に死んでいたらどうしよう、と言ってもどうしようもないが。
ちょっとだけ不安になってきたぞ…。
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