第4話 妹はウザイものだと思っていたが、転生先の妹は不思議と可愛い

 次に目が覚めたときは誰かの気配を感じたからだった。

 そちらに目を向けると妹が心配そうに俺を見ていた。


「おはよう、キアラ」


 妹に呼びかける。

 金髪で明るい緑がかった瞳。

 小柄で華奢だが、目は釣り気味で意志が強そうに見える。

 ありきたりの表現で美少女だ。

 キアラは昼夜逆転している俺の認識がおかしいのか苦笑した。


「お兄さま、まだ夜ですわ」


 転生前は俺に妹がいた。

 夢をぶち壊すようだが、転生前の妹ははっきり言ってウザイ。

 何をすれば俺が苛立つか的確に見通してそこを突いてくる。


 独身男性の嫁、姉妹のいない男の姉妹は優しく美しい。

 そう、いなければだ。

 転生前でもよく哲学者や偉人が結婚生活を嘆いていた。

 俺の主観だけではない……と思う。


 転生前の記憶が戻る前であっても人格は変わっていないはずだ。

 どうやら対処方法が元々に身についていたのか不明だがキアラとはとても仲が良い。

 キアラとだけでなく家族関係は良好だ。

 転生前は疎遠だったのだが。


 そういや、精神病質者サイコパスにならないような環境に降ろすと言っていた。

 良い所に降ろされたのだろう。

 取りあえず、状況確認と安心をさせよう。


「何日、寝込んでいたかな?」


「2日ほどですわ、お体は大丈夫です?」


「空腹を認識できる程度には回復したよ。

もしかして、ずっと看病してくれていたのか?」


 キアラが少し照れたようにほほ笑んだ。


「夕食が終わって、暇を持て余したので立ち寄った所ですの。

よろしければ何か食事を持ってきてもらいましょうか?」


 ずっと見ていてくれたのだろうな。

 それを突っ込むのは野暮だろう。

 結構空腹だ。


「ああ、頼むよ」


「では、暫しお待ちください」


 そしてパタパタと慌ただしく部屋を出ていった。


 ずっと寝ていたせいか背中が痛い。

 上半身を起こしつつも考え込む。

 記憶でのキアラは非常に鋭い、下手な芝居は簡単に見破られてしまう。

 だから注意は必要なのだが……。

 俺の意図もほぼ正確に読み取ってくれるから怪しい点があってもあえて見逃してくれる可能性はある。

 いずれにせよできるだけ発覚しないように注意深く振る舞う必要はある。


 そんなことを考えていると、大勢の気配を感じた。

 扉が開くと、キアラ以外の家族が入ってきた。


 パパンである、フェルディナンドが尋ねてきた。


「アルフレード、熱や頭痛は収まったのか?」


 髪は金髪、明るい緑の目、威厳があるTHE・貴族といった感じ。


「はい、気にならない程度には」


 ママンのアレッサンドラが優しいが注意をするような態度で口を開く。


「昔から落ち着きがないのですから、我慢して大人しくしているのですよ」


 こちらはプラチナブロンドの髪に青い瞳で35歳だがまだ若い感じがする。

 後妻で、俺とキアラの生みの母。

 2児の母とは思えないスタイルだ。

 天然だったら世の女性がうらやむだろう。

 見えない所で体形維持の努力をしているのかもしれない。

 穏やかではあるが凜とした感じ。

 流石に大貴族の妻だけあって、立ち振る舞いは優雅である。


 兄の1人、アミルカレが悩ましげにつぶやく。


「しかし、早いうちに使徒さまなのか確認をしないと周りの催促も激しくなるな」


 もう1人の兄バルダッサーレが答える。


「焦る気持ちはわかりますが、過度の期待をしてもその通りになるとはかぎりません。

もう少し先の確認でも良いでしょう」


 双子なだけあって見た目はほぼそっくりの金髪、青い瞳。


 家族でないと見分けは結構難しい。

 若々しいイケメン貴族といった感じ。

 父ほどでないが威厳のようなものもつき始めている。

 2人の性格は結構違うが、違うからか仲は良い。

 2人は成人しており、パパンの名代として統治修行中だった。

 そんな中俺の高熱を聞いて、見舞いという名の職場放棄をしているらしい。


 ちなみに、2人は天然でコントを始める……これが結構面白い。

 (2人は至って大真面目なのだが)


 俺の容姿は、プラチナブロンドで緑の瞳、見方によってはイケメンに見える程度。


 容姿に関しては家族ではダントツのカースト最下位。

 転生前でもアレだったし随分レベルアップはしているのだがね。

 容姿に転生前もへったくれもないが。


 そうしているうちに新たに2人が部屋に入ってきた。

 1人はファビオ・ヴィスコンティ、俺の家庭教師だ。


「よう坊ちゃん。

お目覚めのようだね。

どうだい、人生が変わったかい?」


 茶色の髪に黒い瞳、不精髭の学者のような中年真っ盛りの36歳。

 身なりに頓着しないテンプレ学者といった風貌だ。


 もう1人は先ほど出ていったキアラ。

 たしなめる感じで言った。


「先生、お兄さまは目覚めたばかりなのですから変わるわけがないでしょう」


 その後、俺に向き直っていった。


「アレッシアに病み上がり用の軽食を頼んだので、暫しお待ちくださいね」


 アレッシアはウチの使用人だったなと思いつつも、俺は軽くうなずいた。

 俺は独身のファビオ先生をからかうような感じで返事を返す。


「先生がご結婚なされたらすぐにでも変わりますよ」


 先生はママンの遠縁で聖職者の家の3男。

 真面目に聖職者になる勉強をせずに追い出された。

 困ったので楽ができて食うに困らない職業として、使徒学なる流行の学問を修めて家庭教師で食いつないでいる。

 使徒学とは今までの使徒の言行をまとめて後世に伝えること。

 使徒としてどのように振る舞った方が良いかを幼少期から洗脳する(先生談)ためのものだ。

 斜に構えているが型どおりの教えも実はズバ抜けて優秀で『優秀だが癖が強すぎる』との評判を得ている。

 俺とは捻くれ者同士気が合うようで結構うまくやっている。


 先生にニヤニヤしながらサラりと流されてしまった。


「どうやら人格は変わっていないようだな」


 一転、真面目腐って先生がパパンに向き直って提案する。


「フェルディナンドさま、ご子息の使徒認定試験は3日後がよろしいでしょう。

そこで変化が見受けられない場合は最後の特殊な確認での判断がよろしいかと」


 この世はコネ世界でフリーダムな先生でも、最低限雇い主の機嫌は損ねないような対応はできる。

 情報が未発達の社会はとにかくコネ、コネ、コネなのだ。

 この世界もその例に漏れない。


 パパンが重々しくうなずく。


「先生がそう言われるならば。

最後の確認とはどのようなもので?」


大袈裟な感じで先生が答える。


「巡礼をすれば自ずとわかります。

巡礼自体は半年くらい掛かる長旅になるので準備をした方がよろしいでしょう。

仮に使徒認定で合になっても、巡礼はすべきと思います」


「では、そのように手配しましょう」


 使徒巡礼は各使徒が拠点としていた地を順に巡る旅だ。

 そして、これはメジャーで使徒の資格がなくてもご利益と加護を求めて巡礼者も多い。

 メッカ巡礼のように一生に一度はやるべきみたいな習慣にまでなっている。

 おかげで街道、道中の治安、宿泊施設すべてが万全と来たもんだ。

 下手な町より、巡礼街道の方の治安が良い始末である。

 キアラが話に割って入った。


「お兄さまが行かれるなら、是非私もご一緒したいですわ」


 キアラは普段から我が儘は言わないが、言い出すと引っ込まない。

 家で専らキアラの相手をしているのが俺だから、1人になると暇すぎて嫌になるのだろう。

 父が即座に却下する。


「ダメだ、まだおまえは使徒兆候が出ていないだろう。

旅の最中で仮に兆候が出たら大変だからな」


 俺がさっきまでのたうち回っていた高熱は使徒兆候と言われている。

 使徒兆候は18歳までに出るときがある。

 18歳過ぎて兆候がなければ使徒ではないと確定される。

 風邪での高熱のケースもあるが、最初の高熱で使徒にならなければその人の資格はないらしい。

 そんな情報ばかりは充実しているなと思った。


 言い合いをしている父と妹を眺めている俺の心を占めていたのは

 腹が減った……だけであった

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