卓上で打たれるは球にあらず

牛☆大権現

卓上で打たれるは球にあらず

奢れる者は久しからず。

俺は、その言葉を身を以て知ることになった。


物心ついた時から、卓球に人生を捧げたと言って過言でないと思うほど、練習を続けて12年。

国内で俺に勝てる中学生はいない!と言う奢りを砕いたのは、当時無名の選手。


技の悉くが見切られ、全てを防がれた。

その雪辱を、今年こそ果たす。


トスを上げる刹那、世界は静寂に包まれる。

ラケットを横にした全く同じモーションから、三種類のレシーブを使い分ける。

強豪相手にも、先取点を奪った事もある俺の得意技だったが……


強力なツッツキ(下回転)で返球される。

横回転をかけたので、それだけなら台を大きく逸れて俺の点だったが。

それも見切って、的確な角度で厳しいコースをついてくる。


とは言うものの、ここまでは想定通り。

予め、フットワークで回り込んでいた俺は、山なりのドライブで揺さぶりをかける。

敵の下回転との相乗で、回転力を増したピン球が、台に触れた瞬間加速する。


だが、これもまたカット(台の外でかける下回転)で返される。

カットマン、これが奴のスタイルだ。

全ての打球を下回転で返し、敵のミスを待つ。


分厚い盾と鎧に身を固めたかのように、崩せない鉄壁の防御。

これに勝利せねば、勝ちは無い。


幾度となく跳ね返される、俺のドライブ。

少しずつ、開いていく点差。

あまりにも長い戦いに、心が折れそうになる。


焦りのあまり、芯を捉え損ねて軌道がズレる。

角に当たって、ピン球があらぬ方向に飛んだ。

相手はそれを拾えず、俺の点となる。


そうか、漸く分かったぞ。

確信を持った俺は、少し後ろに下がってから、サーブを行う。

次のラリーは、今までより長時間続いた。


全力で挑んでいたからこそ、精神に余裕をなくし、勢いのあまり距離を詰めすぎていた。

心に余裕を持ってラリーに付き合えば、鉄壁の防御の隙さえも見つけられるはず。


段々と追い上げる俺の点数、焦りからか敵のカットは甘いコースをついてくるようになった。

最後に打ったスマッシュは、今までに無い手応えだった。


「あ、見付けました! 」


自販機で買ったポカリを飲んでいると、先程まで戦っていたカットマンが声をかけてきた。


「お、おう、お疲れさん」


何を言えば良いか分からず、取り敢えず無難な台詞を選ぶ。


「僕、あなたのファンで、あなたの試合を見たとき、プレーに心を打たれた思いでした!

あなたと戦いたくて卓球はじめたんです! 」


「ふーん、そうなの。君確かに強かったよ」


ファンだと言われて、悪い気はしない。

咄嗟に、手を差し出していた。


「また、ここで戦おうぜ」

「はい! お願いします!! 」


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