第18話 俺の知らない間に妹がませてた

「デートじゃないの?」


「いや、大げさだろ。本買いに行くだけだぞ」


 晩飯をつつきながら、俺は音夢に反論する。


「男と女が二人でどこかけに出かけるんだからそれはもうデートじゃん」


「別に下心とかなしで友達としてどこか二人で出かけるとかよくあるだろ?それだよ」


 俺がゆったりと考えを諭すように話すと、音夢はムッとして脱力した声音で反撃してきた。


「お兄ちゃん、そんな経験ないくせに偉そうな口きくな~~」


「なら、音夢はあるのか?」


 音夢は打って変わって、先ほどまでの勢いをなくし、言葉に詰まる。


「う……な、ないけど私はお兄ちゃんと違って友達からそういう話とかいっぱい聞くし~~」


「あ、そうかい」


 実の妹にさりげなく友達いないと断言され、若干傷つく俺。


 いるし。俺は少数精鋭ってだけだから。


 にしても音夢は本当に俺の妹なのかと疑ってしまうくらい友達が多いんだよなぁ。聞けば、クラスでも中心人物らしいし、いわば星山みたいな立ち位置なんだろう。


 多分、俺は生まれたときにコミュ力を母親のおなかの中に忘れて、それを根こそぎ音夢が持っていったにちがいない。


 そうやって生まれてすらなかった過去を顧みても仕方がないと気づき、俺は黙々と大皿に乗っている野菜炒めに箸を進める。


 それからも音夢とは恋愛絡みの話を聞かされて、俺は完全に受け身に徹していたら、話題は再度、俺と安野は本屋へ行くときのことに戻っていった。


「念のために聞くけどさ、お兄ちゃん当日どんな服装で行くの?」


 音夢はやや俺を怪しむような目つきで質問を投げかける。


「は?服装?知らんけど、多分タンスを開けて一番上にしまってるやつ着るだろうな」


「逮捕ぉぉぉぉ~~~~~~」


「痛い痛い足踏むな俺の足の上で地団太を踏むな」


 俺の返答を聞くなり、音夢はでしょうねと言わんばかりの反応の速さで俺を罵倒し、足を容赦なく攻撃してくる。


「お兄ちゃんが予想通り過ぎるのが悪い。センスのSの字もないよ」


「まさかのローマ字換算!?」


 食い気味のツッコミも空しくスルーされ、音夢はやれやれと言いながら肩をがっくり落とすのと、それはもう深い深いため息のコンボで俺のメンタルを削りに来た。


「あのね。お兄ちゃん。女の子にとっては連れてる男もステータスの一つなの。そんなコンビニ行くみたいな恰好するなんて、お兄ちゃんは完璧美少女のひまりさんの顔に泥を塗りたいの?」


「う……あいつの事情を持ってこられると否定ができないな」


 言われてみれば、安野のような完全無欠の美少女の隣に萎れたもやしみたいなのが歩いていたら、そりゃあ迷惑かけちまうことくらい俺でもわかる。


 俺が最低限身だしなみを整えないと、安野の今後の生活に悪影響を及ぼす可能性だってある。それは同伴者として避けなければならない。


 ただ、生憎様、俺には女子に気を遣って身なりを気にするどころか、女子と二人でどこかに行った試しすらない。つまり立ち往生だ。


「でもどうしたらいいんだ?いくら当日まで時間があると言っても、服のセンスなんて一朝一夕で何とかならないだろ」


「ほんと言うことだけはそれっぽいんだよね~。大丈夫。音夢がプロデュースしてあげる」


 音夢は胸を張って、フフンと鼻を鳴らす。


「マジでか?お前できんの?」


「お兄ちゃん舐めすぎ~。並みの妹ならビンタのゲリラ豪雨に見舞われてたよ」


「音夢さんすいませんでした。拙者をぜひお導きください」


「うむ。よろしい」


 そうして、音夢はスマホの画面をシャーっとスクロールさせて、俺にそれを見せてきた。


「とりあえず、この中からお兄ちゃんが好きなの選んで」


「この中からか?まあ無難っぽいこれとかかな?」


「あ~。お兄ちゃんでも何が無難なのかはわかるんだね」


「めちゃくちゃなめられてるのはわかるが言い返せないのが癪だ」


 兄としての威厳はグングンとなくなっているのを感じるが、タンスの中身と俺のファッションセンスを顧みると、反論する気が湧かない。


「男の子は清潔感さえあればとりあえずは大丈夫だろうし、攻めない方がいいかもね~」


「やっぱ大変なんだな」


「他人事!女の子より考えること少なくて済むんだからめんどくさがらないで!」


「あーあとあんま金かけたくないんだけど。先月ラノベ買いすぎて金欠なんだよ」


「ほんとやる気なさ過ぎて殴りたい」


 そう悪態をつきながらも一生懸命考えてくれる音夢に心の中で感謝しつつ、俺は必死に耳を傾けた。


「あらかた方向性は決まったし、あとは現地に行ってから考えよ~」


「え。まだ考えるの?」


「シャラップ!」


 そうして、後日音夢と店に買いに行き、本屋へ行く約束の日になった。

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