ストライク・ザ・ブラッド
三雲岳斗/電撃文庫・電撃の新文芸
ストライク・ザ・ブラッド1 聖者の右腕
序 章 Intro
序 章 Intro
真夏の街──
その
時刻はすでに真夜中に近く、間もなく日付が変わろうとしている。
明かりの消えたビルの窓ガラスは、街灯の光を反射して、ひび割れた魔法の鏡のような姿をさらしている。駅前の繁華街は、きらびやかなネオンの海。深夜営業のファミレス。カラオケ。コンビニエンスストア。路上にはまだ若者たちがあふれている。
無邪気に
退屈を
真剣な口調で男が言う。
退屈そうな表情で女が言う。
──ふうん、それで?
絃神島・魔族特区。この街では、化け物など珍しくもない。
たとえそれが世界最強の吸血鬼だとしても。
†
そのころ噂の第四真祖は、住宅街へと続く歩道を歩いていた。
彼は白いパーカーのフードを
年齢は十五、六歳というあたり。ただの高校生のように見えるし、事実、彼は高校生だった。
まるで
疲れているわけではないのだろうが、彼の足取りは
路上には、少年以外にも通行人がいる。
色鮮やかな
彼女たちは、少年よりも少しだけ年上なのだろう。学生の雰囲気をまだ残しているが、高校生にはない
少年は、二人から
少年の前で、小さな悲鳴が上がる。
彼女たちの一人が段差に
少年は、無意識に立ち止まってそれを
しかし彼の視線が吸い寄せられていたのは、はだけた浴衣の裾ではなく、彼女たちの首筋のほうだった。浴衣の
少年は、息を止めてそれを見つめている。
強烈な
「…………っ!」
そして次の
彼はそのまま、何事もなかったかのように再び歩き出す。
その指先から
甘く
彼らの
「……勘弁してくれ」
†
真夏の森──
深夜の神社
少女は無言で、広い拝殿の中央に座っている。
まだ幼さを残しているが、
細身で
少女が身につけているのは、関西にある私立中学の制服。
拝殿には三人の先客がいる。
〝
いずれも最高位の
少女は制服の
「名乗りなさい」
御簾の向こう側から声が聞こえた。口調は
「
「
「あと四カ月で十五になります」
「そう……姫柊雪菜。修行を始めたのは、七年前ね。あなたが七歳の誕生日を迎えてすぐ……雪が降る寒い夜に、たった一人で機関に連れてこられた。その日のことを覚えてる?」
御簾の向こう側の女が、突然、
「いえ……
雪菜は小さく首を振った。その言葉は事実ではなかったし、相手もそれに気づいたはずだ。しかし女はなにも言わなかった。代わりに彼女は質問を続ける。
「成績が良いそうね。
「ありがとうございます」
「縁堂とは、何度か一緒に仕事をしたことがあります。非常に優秀な
「
「魔術は? 縁藤の専門はそちら方面のはずですが」
「大陸系のものについては一通り。西洋魔術は
「魔族との
「
「武術は?」
「使えます。いちおうは」
「そう? だと良いけれど」
くす、と
「──っ!?」
その
板張りの
大気を
雪菜の動きが一瞬でも遅れていたら、確実に命を落としていた。真剣による本気の
二体の大柄な
彼らの存在は実体ではない。
「
口の中で短い
鎧武者の姿は一瞬で
式神を生み出す
「これは……なんの
軽く息を
これ以上、式神の相手をする気はなかった。戦闘が長引けば、力量の劣る雪菜に勝ち目はない。たとえ相手が
まるでそれを待ちかねていたかのように、御簾の向こうから、まばらな拍手が
「ふはははは。よい判断であるな、
満足げに笑う男の、低く野太い声が聞こえてくる。
続けて、年齢も性別もよくわからない声で、
「
「合格……?」
御簾の向こうから聞こえてくる長老たちの声に、雪菜はムッと
「そう。あなたが
最初の女の声が言った。彼女の言葉に渋々と従って、雪菜は正座に戻った。
「さあ、本題に入りましょう」
「はい」
「良い返事です。まずは、これを」
その言葉とともに、
音もなく羽ばたいて雪菜の前に着地すると、蝶は一枚の写真へと変わる。
写っていたのは、高校の制服を着た一人の男子生徒。友人たちと談笑している姿を、
「この写真は?」
「
「いえ」
雪菜は正直に首を振る。実際、初めて目にする顔だった。その答えを最初から予想していたのだろう。女は、なんの
「彼のことを、どう思いますか?」
「え?」
突然の質問に、雪菜は
「写真だけでは正確なことはわかりませんが、おそらく武術に関しては完全な
「いえ、そういうことではなく、あなたが彼をどう思うかと訊いているのです。つまり、彼はあなたの好みですか?」
「は、はい? なにを……?」
「たとえば顔の良し
「あの……わたしをからかってるんですか?」
雪菜のそんな反応に、御簾の向こう側の女は
「では、
さらに
「
「そのとおり。一切の
冷静な女の声が拝殿に
なぜならそれは、世界最強の吸血鬼の肩書きだからだ。
自らそう名乗っているわけではないが、少なくとも世間はそのように認識している。そして敵対しているはずの者たちでさえ、あえてそれを否定しようとはしない。第四真祖とはそのような存在だ。
「ですが、第四真祖は実在しないと聞いています。ただの都市伝説の
真祖とは、
「たしかに、
「
女の言葉を引き継いで、男が荒っぽい口調で告げる。続けて、もう一人の長老の声も。
「おぬし、今年の春に、京都で起きた
「……え?」
「四年前のローマの列車事故、それに中国での都市消失事件も。マンハッタンの海底トンネル爆破事件もあったの。古いところではシドニーの大火災も」
「まさか……それらすべてが第四真祖の
雪菜が表情を引き
「あらゆる状況証拠が、四番目の真祖の実在を示しています」
青ざめる雪菜に、最初の女が告げる。
「彼らは歴史の転換点に必ず現れ、世界に
「はい」
雪菜はぎこちなくうなずいた。
吸血という種族特性と、高い教養知性を備えた彼ら吸血鬼は、常に人類に敵対する存在とは限らない。彼らの多くは人間社会に溶けこんで暮らすことを好み、人類という種族全体を敵に回すことをこれまで慎重に避けてきた。
さらに各国政府と真祖たちの間には、無差別の吸血行為を禁止する条約が結ばれ、表向きは平和的な共存が実現しているようにも見える。だがそれは、三つの
「
「はい」
「ですが、もし彼らと同等の力を持つ四番目の真祖が出現したら、その
「
「ええ。まだ確認はとれていませんが、ほぼ間違いないでしょう」
「彼は、どちらに?」
「東京都
女の言葉に、雪菜はしばし絶句した。
「第四真祖が、日本に……!?」
「それが今日あなたをここに呼んだ理由です、
静かだが、
「わたしが……第四真祖の監視役を?」
「ええ。そして、もしあなたが監視対象を危険な存在だと判断した場合、全力を持ってこれを
「抹殺……!?」
雪菜は動揺して言葉を失った。
第四真祖に対する恐怖はある。それほどの大任が、自分に務まるだろうかという不安もだ。
これまでの修行に手を抜いたことはないが、しょせん雪菜は見習いの身。本気で第四真祖を倒せると思うほど
だが、誰かがそれをやらなければ、いずれ大勢の人々が
「受け取りなさい、姫柊雪菜」
巻き上げた
「これは……」
「七式突撃降魔機槍〝シュネーヴァルツァー〟です。
知っていますね、という女の問いかけに、
だが、武器の
「これを……わたしに?」
差し出された槍を受け取りながら、雪菜は信じられないという表情で
しかし女は、むしろ重苦しげに息を吐く。
「
「はい、それはもちろん……ですが」
そう言って雪菜は、困惑の表情を浮かべた。
「あの、これは?」
「制服です。あなたの身長に合わせたものを用意してもらいました」
「その……ですから、なぜ制服を?」
「あなたの監視対象が、その制服の学校の生徒だからです」
「は?」
自分がなにを言われたのかわからず、雪菜は軽く混乱する。
「え? 監視対象……
「私立
「暁古城……この写真の人物が第四真祖……? ええっ!?」
御簾ごしに、〝
「あらためて命じます、姫柊雪菜。あなたはこれより全力をもって彼に接近し、彼の行動を監視するように。
一方的にそれだけを言い残して、
拝殿にたった一人で取り残された
占いの
ストライク・ザ・ブラッド 三雲岳斗/電撃文庫・電撃の新文芸 @dengekibunko
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