藍色の夢(十一)

「直接的なことは、過干渉になるから言えないけど。ひとつ、助言してあげるわ」

「お願いいたします」


 私は深々と頭を下げた。


 静まり返った空間で、神使の方が言葉を発するまで。

 ずいぶんと、長い時のように感じられた。


「──ありあけの月のように、生きてごらんなさい」


 耳に届いた不可思議な御神託。

 私は思わず顔を上げてしまった。


「……ありあけ、の……?」

「訳がわからないって顔をしてるけど、これ以上は教えられないから。後は自分で考えるのよ」


 やさしく諭してくださる神使の方。

 たしかに。本来ならば、何も知らずに人生を歩まねばならぬ。


「はい、ありがとうございます。精進して参ります」


 お礼を申し上げ、私はハッとした。神使の方の神気が、薄れてきていた。


「長々とお時間を頂戴してしまい、申し訳ございません」

「いいのよ。あなたのためになったのなら、それで」


 私のためと仰りながら、私を通してお祖父様を見ていらしたように思う。


「おかげさまで、いくぶんか心が晴れたような気がいたします」

「それは何よりだわ」

「そろそろお暇いたしますゆえ、あなた様もお休みになってくださいませ」

「ふふ。お気遣い、ありがと」


 良い子ね、と頭を撫でてくださった。その優しい手つきは、お祖父様と少しだけ似ているような気がした。


「……じゃあ、送るわね」

「はい。ご親切に、ありがとうございました」


 改めてお礼を申し上げた私に、微笑まれた神使の方。静かに離された手が、少しずつ遠のいていく。

 私の意識も、少しずつ。


「……こんな形でしか、伝えられなくて、ごめんなさい……あなたの、お祖父様は──」


 呟くように発せられた悲愴な声も、しだいに遠のいて──


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