一章 久寿三年(一一五五)四月~十二月【改稿済】

童の姿にて目覚める(一)

 目覚めたのは、御帳台の中。天蓋の明り取りから、夜明け間近の明かりが、わずかに入ってきていた。 

 目の前に、手をかざしてみる。寝衣の先にあったのは、まごうかたなき童の手。

 前世の部屋でも前世の姿でもない、今の〝私〟が在るところ。


 この小さな手では、掬えるものも掴めるものも少なかろう。だが家族の──家族ばかりではない。家臣たちも含め、大切な者の命は、ひとつとして取りこぼす訳にはいかぬ。

 夢にていただいた御神託を、無にしてはならぬのだ。

 

 神気をすり減らしてまでも〝私〟の魂の在処を示してくださった、神使の方のためにも。

 病の床にいらしてまでも私を案じてくださる、熱田のお祖父様のためにも。


「……お祖父様……」


 かざした手が、衾にぱたりと落ちた。

 夢からの去り際、神使の方は、今年中に覚悟を決めよと仰せになった。

 今は四月。あと八ヶ月の間に、覚悟を……家族には、折を見て伝えねばなるまい。


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