童の姿にて目覚める(二)

 天蓋に映り込む色が、少しずつ明るくなっていく。夜明けの色だ。


『──ありあけの月のように、生きてごらんなさい』


 神使の方の声が、脳裏によみがえった。


 ありあけの月は、夜が明けても存在を残す月だ。白く淡い姿で、気づく方がいようがいまいが、ただそこに在る。

 ただ、そこに……誰に知られずとも、大切な者たちのためにできることをせよ──と?


 長兄の義平異母兄上のように、太陽のごとく輝くのではなく。

 次兄の朝長異母兄上のように、明月のごとく辺りを照らすのでもなく。 


「……私、は……」


 歴史に名高い〝源頼朝〟として生きなくてもよい。

 源氏の長も、征夷大将軍も、私でなくてもよい。

 この世界は〝平安時代〟ではない。ゆえに──

 誰に憚ることなく、〝私〟として生きてもよいのだ……!


 衾を握る手が、震えた。


「……ふ……」


 武者震いの中、吐息がこぼれた。

 死の淵どころか、その先まで覚えている身とすれば。その恐怖も、何の前触れもなく大切なものと引き離される絶望も。彼らには、知らずにいて欲しい。

 私の内で眠る彼女も、きっとそう思うだろう。


「私は……」


 天蓋を見据えて、心の内に静かな炎を灯した。

 ……必ずや、最善の道を選び取ろうぞ。大切な者たちを、失わぬために。


 彼らを守るためならば、この身を賭すことも厭わぬだろう。

 それほどまでに──私は、彼らを愛している。


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