藍色の夢(十)

「……この世界にも、〝信西しんぜい〟なる御仁はいるのですか?」

「えぇ」

「〝藤原信頼のぶより卿〟も?」

「えぇ。こちらは、温厚な方のようだけど」

「……『平治の乱』を起こすような方ではない、と?」

「少なくとも、今はそういう性質には見えないわね」

「左様でございますか……」


 こちらの〝平清盛公〟と父上とは、旧知の仲と伺ったことがある。今の関係も、特筆すべきことはないようだ。

 では、信頼卿と関わるようなことがなければ、父上や異母兄上方が〝反信西派〟として兵を挙げるようなことにはならぬか……? いや……


「信西殿の人となりは、いかような……?」

「あちらもこちらも、あまり変わらないような気がするわ」

「左様でございますか」


 注意すべきは、信西殿か。父上は、何も仰っていなかったが……いや、違うな。

 私の耳にまつりごとの話は入って参らぬ。童ゆえに、世俗から守られているのだろう。

 信西殿に思うところがあるか……などと、家族に訊ける訳もない。今の私に、できることは……

 私は居ずまいを正した。


「ふたたびの無礼をお許しいただきたく存じます。……唐突ではございますが、私の願いは、大切な者たちが天寿を全うすることでございます」


 この世界で生きるには、甘すぎる願いやもしれぬ。だが〝私〟という人格を持ってから、初めて得た家族だ。

 理不尽な人災によって彼らを喪いたくない。そう思う心に、時世は関係ないのではあるまいか。


「願いを申し上げた上で、教えていただきたく存じます。最善の道へとたどり着くには、いかがすればよろしいでしょうか?」

「……答えずらい質問をするのね」


 神使の方は困ったように視線をそらされ、少しの間を置いて、私に視線を戻された。


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