術符に込めた祈り(七)
それはともかく。非力ということを除いても、頑なに私を戦場へと差し向けぬのは、いかなる訳があってのことか。お祖父様に訊ねると、
「そなたは優れた術師よ。季範殿が期待を寄せていたほどのな」
「毘沙門天の気配を感じとれぬ、未熟者でございますが」
「そう卑下することはあるまい。儂とて、夢にてお告げがあったゆえ、義平が加護を持って生まれることを知ることができたのだ」
「御神託が……毘沙門天がお護りくださっているのなら、我が家は安泰でございますね」
ゆえに、お祖父様が難儀な道を進まれる必要はない。私はそう言いたかった。だが、お祖父様は、
「うむ。それに立派な家督や嫡孫もおるゆえ、儂は心置きなく、己の道を行けようぞ」
と仰った。目には迷いがない。説得は無理か……
「お祖父様……どうあっても、崇徳上皇陛下とともに進まれるのでございますね」
「民のために尽くそうとなさったあの方を、このような形で喪ってはならぬゆえな」
お祖父様のお気持ちはわかる。私がお祖父様の立場であったなら、同じ道を選んだやもしれぬ。愛おしい家族も、それ以外も、己の身を賭すことで守れるとしたら……例えそれが、死出の旅であったとしても──
「私たちも……私も、お祖父様を喪いとうございません。ですから、せめて……」
私は胸元から術符をふたつ取り出した。
「これらをお持ちくださいませ」
「何ぞ」
「こちらは敵の攻撃を防いでくれる札、そしてこちらが、身代わり札でございます」
「これを儂に持てと?」
「はい」
「そなたは、儂の腕を侮っておるのか?」
お祖父様の……源氏の長の目が、鋭くなった。
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