術符に込めた祈り(八)

「とんでもないことでございます。お祖父様は、我ら源氏が誇る一の武士。幾人が束になろうとも、刀傷の一筋すらつけられぬと思うております」

「ならば何故、身代わり札などと申すのか」

「此度の相手は信西殿でございます。人柄は父上からお伺いした限りでございますが、武士の本分である〝尋常に勝負〟とは、ほど遠い御仁かと」

「……たしかに」

「信西殿は、戦場においても卑怯な手を使うやもしれませぬ。なればこそ、お祖父様が些事に煩わされず、正々堂々と、存分に腕を振るえるよう、考えた次第でございます。……どうぞ私の心とお思いになって、お持ちくださいませぬか」

「そなたは……いつから、そのように口達者となったのか」

「思うだけでは伝わらぬと、夢にて御神託をいただいたのでございます」

「お告げとな」


 お祖父様は私の目をご覧になり、


「……ふむ……」


 と呟かれると、瞑目なさった。しばしの後、目を開けられ、


「では、念のため持っておこうか」


 と、お受け取りくださった。私は、ひとまず安堵する。


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