術符に込めた祈り(六)

 私は続ける。嘘偽りない、心からの言葉を。


「本音を申し上げれば、私はお祖父様に生きていていただきとうこざいます。これよりずっと先も、お祖父様と一緒にいとうございます」

「鬼武者……」

「されど、私とて武士の子でございます。お祖父様が……源氏の長が心を決められたのならば、その誇りに傷をつけるような真似はしたくありませぬ」

「うむ」


 お祖父様は、源氏の長の顔で頷かれた。


「……今の私では、戦で役に立ちませぬ。ゆえに、お祖父様とともに戦場いくさばに立ちたくとも、それは叶いませぬ」


 今の私では、頭数で出陣したとしても、すぐに討たれてしまうだろう。童用の修練刀ですら、重さに振り回されまともに扱えぬのだ。実戦で足手まといになることは目に見えている。祭礼刀ならば、不思議と体の一部のように扱えるのだが……


「そなたを戦場になど行かせぬよ。儂も義朝も、そのようなことは許さぬ」

「私が非力であるばかりに、お祖父様のお役に立てぬことが悔しゅうございます」


 鍛錬は欠かさぬのだが、どうもこの体は筋肉がつきにくい。今の暮らしに不満はないが、それだけが難点だ。


「もし、そなたに刀の才があったとしても、許しはせぬ」


 お祖父様の思いがけぬ言葉に、私の思考は一瞬停止した。だが、その後すぐに疑問が湧いたゆえ、妙な間を作らずに済んだ。


「刀の才があれば、義平異母兄上のように、元服前からお役に立てたのではございませんか?」

「義平は毘沙門天の加護があるゆえ、早いうちから実戦を経験させたまでのこと」

「毘沙門天……」


 あの恵まれた体躯と身体能力は、御加護もあってのことだったのか。常日頃、努力なさっているのを間近で拝見していたゆえ、自ら手になさった才とばかり思っていた。 

 堂々たる風格も気迫も、流石は我らの異母兄上と称えるばかりで、毘沙門天の気配を察することができなかった。術師として、大いに恥ずべきところだ。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る