術符に込めた祈り(三)
さりとて、私もこのままではいられぬ。父上のご迷惑にならぬよう、行動いたそう。
「父上。おつかれのところ、お引き留めして申し訳ございません。どうぞ少しでも、お休みくださいませ」
「うむ」
母上の元へ戻られる父上の背中を見送り、私も室へ戻った。
私室には、近江の姿があった。
「お目覚めでございましたか」
「うむ。父上と、少々話をな」
「左様でございますか……」
近江は痛ましげに目を伏せた。お祖父様の件、耳に入っているのだな。
「本日は、慌ただしい一日となろうな」
「はい、おそらくは……」
父上や異母兄上方は、戦支度でお忙しいことだろう。母上や義母上方も、そちらを手伝われるはずだ。
気がかりは常盤の義母上だが、周防を始めとし、信の置ける者たちが付き添っている。その上、北対は他の対より外壁が高く厚いゆえ、外の騒音に脅かされることも少なかろう。
「近江も、母上の手伝いをしてくれ」
「よろしいのですか……?」
「人手は、いくらあってもよかろう。私は室でおとなしくしているゆえ、安堵いたせ」
近江は、妙に落ち着いた様子の私が気にかかるようだが、問うてくることはしなかった。
「……では、朝餉の後より、しばらく離れますこと、お許しくださいませ」
「うむ。頼んだぞ」
「はい」
いつもの支度の合間に、私は墨と熱田のお祖父様の筆を頼んだ。
「朝餉の後、写経をしたいのだ。お祖父様や父上、異母兄上方のご無事を祈願したいと思うてな」
「承知いたしました。若様のお心、皆様きっとお喜びになると思いますわ」
やさしい姉のような眼差しで、近江は頷いた。
……これで、準備は整った。
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