懸念が形を成す(一)
七月。庭の蝉が、熱さに負けじと己の生き様を謳っている。
私の懸念は杞憂に終わらなかった。月が変わるのを待っていたかのように、事態は動き出してしまったのだ。
七月二日の鳥羽法皇陛下ご逝去が大いなる要因であろうことは、童の私でもわかる。人々の間には、堰き止めていた大水が一気に溢れ出たような騒ぎが広まった。
我が家も、いつものあたたかな空気が追いやられたかのように、物々しい空気に包まれている。ただ北対にだけは伝わらぬよう、皆が細心の注意を払っているところだ。
七月六日の夜。
私は小助を呼び、仔細を訊ねた。
「昨日は特に騒がしかったように思うが、何があった?」
「……事件が起こりました」
「事件とな」
「はい。『崇徳上皇陛下は左大臣・藤原頼長卿と謀り、兵を挙げて国を転覆させようとなさっている』との〝噂〟が流れたのです」
「何と……」
小助の説明によれば、崇徳上皇陛下が激しい怒りの炎を燃やされていたことは事実。鳥羽法皇陛下への最期の対面を許されなかったため、なおのこと。その上、上皇陛下の臣下たちは、後白河方に対抗するため挙兵の準備をしていた。
「これらを、あえて歪曲して、世に知らしめようとした者がおります」
新政権の円滑な運営のため、という大義名分を盾に、崇徳方を
「……それは、信西殿のことか?」
「はい。ですが、今の政権を大きく支えてきたのもまた信西殿、と言われております」
御上の筆頭近侍である信西殿に進言できる方は、ただおひと方。次位近侍でいらっしゃる藤原
他の方々は不平や不満を抱えながらも、ただ成り行きを見ているしかなかったとのことだ。
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